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明日への視角

ケア労働と公共サービス

久場 嬉子(龍谷大学経済学部教授)

 合意済みの日本・フィリピン経済連携協定(EPA)によるフィリピン人の看護・介護職への受け入れをめぐって、賛否両論が対立している。前者は、介護士らの絶対的な人数不足を指摘し、近隣諸国、とりわけアジアにおける労働人材の適材適所な配置を促進するものとし、後者は、介護人材不足は基本的な労働条件の問題に他ならず、安易な外国人労働者への依存こそその一層の悪化をもたらすと警戒する。
  少子高齢化が進むなか、ケアサービスの、すなわちケア(保育・介護)労働者の安定的な確保は、避けて通れない政策課題である。その対応には、ケアの必要を公共的に対応すべきニーズとして確立する社会的な合意形成が急がれる。しかし、小泉内閣の構造改革路線は、それと逆行する方向をひた走る。外国人ヘルパーの受け入れ反対派も、この現状に対する厳しい批判や代替的な具体案、政策を提示していない。
  現在、「市場化テスト」法など、公共サービスの供給を「経済化」(エコノマイズ)しようとする動きが加速化している。ケアサービスは「自己責任」により、各人が市場において購入するよう奨励されている。同時に、介護や保育は、結局のところ家族や親族の手によって充たされるべきとし、専ら「家族の絆」、「家族の愛」を強調する後戻り路線も強まっている。日本の特徴は、目下のジェンダーフリー・バッシングと結びつくこの新保守主義が、公共サービスの縮小や抑制をめぐって前者の新自由主義と協調し、深いところで両者が相互補完の関係にたっていることだろう。
  ケア先進国のスウェーデンでも、多くの外国生まれケアワーカーが働いている。安価な介護労働者として受け入れたのでなく、難民などスウェーデンで暮らしている人たちである。注目したいことは、Kommunal(地方自治体のブルーカラー労組)が、公共サービスを担う仲間として組織し、一緒に職業のレベルアップをはかっていることである。日本では、うっかりすると不安定就労ばかりとなりかねない。数のみでなく質の問われる対人ケアサービスの分野こそ、同一労働同一賃金および同一価値労働同一賃金を確立させた「安心と安定の働き方」、そして新しい公共サービスを創り出す場にできないだろうか。

生活経済政策2006年5月号掲載