医療崩壊を防ぐ決断
山井 和則(民主党衆議院議員・生活研理事)
いま日本では、急速に「医療崩壊」が進んでいる。
この文を書いている5月末に参議院で審議中の医療制度改革法案が成立すると、医療崩壊が加速し、今年は「医療崩壊元年」として、日本の歴史に残るだろう。
全国各地の医師不足、医師の偏在は深刻な状況で、小児科・産婦人科、救急の医師などが不足しており、地域病院の小児救急や産科が閉鎖に追い込まれている。
しかし、政府はこのような医療崩壊の実態に正面から対応しようとしない。「医師の需給検討会」は、今年の3月末に結論を出す予定だったが、なぜか結論が夏まで延びた。きちんと実態を把握し、必要数を調査すれば、近年の医療ニーズの多様化や高度化、高齢化等による需要の高まりによって、医師は現在、不足していることが分かるはずだ。しかし、政府は医師が足りているか、不足しているか、という基本的な推計すら出していない。
実態把握や調査なき政策論議は無意味だ。実態把握も調査も積極的にしようとしない厚生労働省は、政策論議を放棄している。国のこの無責任極まりない態度は、日本の医師、特に勤務医を失望させ、医師のモラルを低下させる。医療従事者や病院経営者に、「正直者が馬鹿を見るのはあほらしい」と感じる人が増える。医療の中身は二の次で、金儲けを重視する病院が増えかねない。
医療費を削りすぎて結局、被害を受けるのは患者であり、国民だ。病気になったときには、貧富の差に関係なく同じレベルの医療を国民に提供する。これが日本の国民皆保険の理念であったはずだ。しかし、今回の法案で、公的保険の部分は小さくなり、住む地域や収入による医療の格差がさらに拡大する。
昨年の障害者自立支援法の審議の際に、私は障害者自立支援法を施行すれば、障害者の家庭で心中事件が起こると指摘した。悲しいことにそのとおりの事件が起こっている。この医療改革法案が成立すれば、介護難民、お産難民、小児救急難民が急増し、地方の医師不足がますます深刻化するだろう。
一般財源を緊急に投入してでも、病院の勤務医や医療従事者を増やさないと、日本の医療は崩壊する。官僚任せではなく、国会が決断しなければならない。
改めて政権交代の必要を切に感じる。
(生活経済政策2006年7月号掲載)