三度目の正直?
篠田 徹(早稲田大学社会科学総合学術院教授)
アメリカはふたたびグローバル・リベラリズムをめざすのか。来年の大統領選挙をめぐるニュースはそんなことを考えさせる。ニューヨーク市大のネイル・スミスは近著『グローバリゼーションの大詰め』で、アメリカは19世紀末の大騒擾から第一次大戦後の国際連盟結成、大恐慌から第二次大戦後の国際連合結成、そしてベトナム戦争末期から今日までと三度、アメリカン・リベラリズムのグローバル化を試みてきたと主張する。スミスによれば、アメリカン・リベラリズムのグローバル化とは、アメリカ系多国籍企業の世界覇権を容易にする国際環境の形成と、社会主義や社会民主主義に対する「解毒剤」として福祉資本主義の世界伝播をめざす。過去二回が戦争と和解がセットだったとすれば、イラク戦争が終焉に向かう今、どんな国際和解のもとでグローバル・リベラリズムの新たな制度化がめざされるのか。そうした関心で大統領選を考えるのも興味深い。
中間選挙での大勝を受けて、民主党の大統領候補は早くもヒラリー・クリントンとバラック・オバマの二氏に絞られた観がある。ただ両者とも国内外でクリントンの中道政治を継承する点で大きな違いはない。他方共和党もロムニー、マケイン、ジュリアーニが今目立つ所だが、いずれも現時点で相対的に中道派である点で共通する。
さらにジョンソン以来大統領は西・南部出身と決まっていたのが、この五人ではマケインを除くと皆東部ないし中西部が地盤である。ただ最近南部企業の雄ウォルマートと去年労働界を割ったサービス労組が、労使の仲間と共にクリントン政権の参謀ポデッサとテネシーの共和党元上院議員らと、競争力維持のための企業負担軽減をめざして国民健康保険制定のロビー活動を展開しているのはおもしろい。ちなみにウォルマートとサービス労組は双方中国に深く食い込む。これらの動きが新たなグローバル・ガバナンスの形成に繋がるのか、今後注目される。
そう考えると、自公が「パートの党」をめざし、官公労が企業別組合化し、労使関係の個別化と司法化が進み、社会保険労務士を初め「労働問題」への新規参入者が登場する、最近の日本の労働政治の構造変動も、同じ文脈にあるのかもしれない。
(生活経済政策2007年4月号掲載)