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明日への視角

東アジア世界の共同知と公共圏構築 ―東アジア統合に向けての共通の知的基盤を求めて―

増田祐司(島根県立大学教授)

 21世紀は、アジアの時代となると言われて久しい。いま、その世界史的な転換が、アジアに向けて回帰している。グローバル化という大きな潮流の中で、それぞれ地域は、発展の可能性を探り、他方では統合に向けて方向付けされつつある。
  東アジア共同体論が盛んに論じられ、その可能性、統合の方法等に関して様々に検討されてきている。ASEAN等のアジアにおける共同体構想、またEU(欧州連合)の形成等が推進の背景にはある。東アジア共同体を構築するには、EUの例を見るまでもなく、共同の理念をいかに確立するかが、大きな課題である。
  東アジア統合は、歴史的には新しい世界編成の流れの中にあり、東アジア世界構築のありかたが、課題となる。東アジア世界の東洋文明は、近代化を先導した西洋文明に相対するものであるが、極めて長い間に形成された歴史的存在といえる。近代日本を考えるとき、日本は、アジアと離れて欧州の近代化をモデル化し、それに学び、最後にあの第二次世界大戦の戦渦を引き起こした。
  戦後日本の急速な経済成長は、近代産業文明を先導した20世紀アメリカ文明に大きく影響を受けている。しかし、経済発展の背景には欧州文明よりも古い儒教文明圏が通底しており、東アジア的な思考様式、文明と深く関係している。東アジア諸国の間に共通、共有できる「知」の空間が存在している。この「知」は、単に一民族の生活の知恵や一国家の政治的理念ではない。「共同知」とは、自然や社会を認識する知識、知的活動、倫理観、および価値観の次元での参加者の活動を示している。
  それは、まさに東アジア地域の「共同知」に他ならない。21世紀初頭のいま、東アジアにおける公共圏構築のありかたが問われている。「共同知」の再発見・再創造を通じて、21世紀の東アジアは、新しい共存の〈かたち〉を創造することになるのである。そして将来、相互利益になる方向性を求め、排他的で過激な民族主義でもない、東アジアに共通する知的公共圏を構築することが、東アジア共同知の創出の基盤となる。

生活経済政策2007年6月号掲載