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明日への視角

小さなユートピアを

篠原 一(東京大学名誉教授)

 20世紀が終わってからすでに8年目に入った。そろそろ自分の人生の大半を過した世紀を客観的にふりかえる時期がきているのではないかと思っているとき、アメリカの歴史学者ウィンター J.の『平和と自由の夢 —20世紀におけるユートピア期』という本に出会った。20世紀は「極端な世紀」(ホブズボーム)ともいわれるが、そこに生きていた人々は、それぞれ夢を持ち、小さなユートピアをもって生活してきた。ウィンターによれば、1900年(パリ万博)、1921年(ヴェルサイユ講和条約)、1948年(世界人権宣言)、1968年(参加革命—大学闘争)、1992年(マーストリヒト条約—EUと地球市民の誕生)など、その記念すべき年だという。日本人としては、ぜひこれに1947年(日本国憲法第9条)を加えたい。
 たしかに、20世紀を大きな歴史の流れとしてとらえることも必要だが、一人一人の夢とユートピアを丹念に記録していくことも大切であろう。20世紀はパリ万博という華やかなイヴェントによって幕開けしたが、21世紀はニューヨーク同時多発テロによって始まった。暗い世紀の始まりだが、われわれは21世紀も夢を持って歴史をつくっていきたい。最近の日本にはユートピアとその実現に向かう意欲が乏しいが、21世紀にもいくつかの記念さるべきエポックとなるような年をつくりたい。
 しかし現在「改革」というと、もっぱらネオ・リベラルの線に沿った競争と効率本位の「改革」だけをイメージして、人間らしい生き方とは何かという観点を忘れてしまう。「改革」という言葉が汚染されているのだ。そして企業の責任者が毎日のように、「申し訳ありませんでした」と頭を下げているのに、政府の審議会の中心的メンバーは財界人ばかりである。何か奇妙な風景だ。
 いまもっとも必要なものは、競争と利益の追求ではなく、他者の権利の尊重のうえに立った、市民的公共性なのではないか。環境問題、地球温暖化はもちろんその延長線上にある。とすると、「官から民へ」ではなく、「民から公へ」がスローガンとなる時代がやがて来るにちがいない。21世紀は、平和と人権と、そしてこの「社会的なるもの」(social-ism)を記念する年を歴史に刻むことができるであろうか。

生活経済政策2008年1月号掲載