日本という国の底が抜けた
森越康雄(日本教職員組合中央執行委員長)
『司法の判断には従う』というこの国の基盤が崩れ去った日、2008年2月1日。日本教職員組合(日教組)が戦後、民主教育を進めるための実践交流の場として営々ととりくんできた教育研究全国集会(全国教研)は、今年度で第57次を迎えた。その前夜祭会場として、また翌日の全体集会として予約していた会場準備のため、私たちの代表はこの日の朝、グランドプリンスホテル新高輪を訪れた。
昨年3月に会場使用を申し込み、190室の宿泊とともに確かに10月26日までは借りられることになっていたのが、その9日後突然契約は白紙に戻された。そこから3000人規模の会場確保は不可能であったため、私たちは東京地裁に会場使用の仮処分を求め、地裁さらに1月30日には東京高裁からも、「ホテル側は日教組に会場を使用させなければならない」との判決が出された。しかしその判決は無視され、私たちの会場使用は拒絶された。
ホテル側は、気に入らない判決は従わない、今後の賠償請求が予想される判決には従う、金なら出すと言うのである。万引きして捕まって、「金を払えば文句ないだろう」というのと同じではないか。「謝って済むのなら警察は要らない」との例えもあるが、法務大臣・厚労大臣が問題だとし港区が事情聴取に入っても、彼らは未だもって謝りもしない。
会場使用を拒否した理由をホテル側は、「右翼の妨害活動でお客様と周辺に迷惑がかかるから」と言っている。会場を借りた私たちも客であり、大音量で迷惑をかけるのは第三者(右翼団体)であることは、判決でも明確に指摘されている。これがまかり通ればこの国は、抗議団が押し寄せるサミットをはじめとする国際会議は開けなくなる。「テロには屈しない」どころか、脅されてもいない(とホテルは言う)のに、右翼に勝手に屈したのだ。
(株)プリンスホテル=西武ホールディングスは、コンプライアンス(法令順守)を完全に踏み躙った。海外であれば、そんなホテルは即刻営業停止だという。このアウトロー(無法者)ホテルに対して法的にも社会的にも何の制裁もできないならば、この国の裁判制度も憲法もどうでもいいものになってしまう。今、多くの人や組織から怒りの声が上がっている。
(生活経済政策2008年4月号掲載)