オバマは大丈夫か
伊東 光晴(京都大学名誉教授)
数十年前のアメリカの人種差別を知っている者にとって、黒人大統領がアメリカに生れたことは文字どおり大変なことである。アメリカは変わった。これを予想した経済学者クルーグマンはたいしたものだと感心させられる。
だが大統領になってからのオバマを見ると、こと経済に関するかぎり大丈夫かと首を傾げざるをえない。
まず、彼を支える経済政策担当のスタッフは、多くがクリントン政権からのものである。クリントンは共和党のレーガンの市場原理主義的政策-フリードマン指導のそれを修正することはできず、大きな目から見れば、レーガンの流れの中にあった。事実、経済運営の中心である財務長官は、自由競争を世界に拡大させている投資銀行のトップをすえていた。それがオバマのスタッフに入っている。
フリードマンをもっともすぐれた経済学者というバーナンキをFRB-日本でいう中央銀行総裁においている。不況はアメリカには起こらない。金融政策がしっかりしているからと、かれは言っていたが現実はどうか。また不況は金融政策で克服できると言っている。本当か。アメリカの1930年代の経験ではできなかった。かつてイギリスの経済学者たちは、立場は違っていても、ケインズも、ピグーも、ロバートソンも金融政策はインフレには有効だが、逆のデフレには無効という考えで一致していた。
大不況をつくり出したフリードマン的政策を批判していた人たちを登用せず、フリードマン派が続投でよいのか。
民主党の大統領候補受諾演説でオバマは、民主党はルーズベルトの党だと言った。ルーズベルトは共和党の新古典派的自由主義・市場主義的政策を捨て、試行錯誤の中から福祉社会をつくる八つの新しい自由に到達した。雇用の権利、衣食をみたすに充分な所得を得る権利、公正な価格、まともな家に住む権利、充分な医療を受ける権利、老後、事故、失業の不安から守られる権利・教育を受ける権利、等である。
オバマはひとつのアメリカを唱え当選したためか、共和党と闘うことを回避している。
私の危惧感が取り除かれることを、私は期待している。
(生活経済政策2009年5月号掲載)