政権交代の意味
橘木 俊詔(同志社大学経済学部教授)
9月中旬に民主党による新政権が誕生した。選挙による政権交代は日本では珍しいが、民主主義の歴史が長い欧米では頻繁に発生しているので、別に驚くことではない。日本の民主主義が政権交代を実現したという意味で、むしろ良い方向にあると理解してもよいのではないだろうか。
しかし、ヨーロッパの政権交代と日本のそれとはやや異なった側面がある。一昔前のヨーロッパであれば、保守と革新(あるいは社会民主主義)というかなり主義の異なった政党間の交代であった。イギリスでは保守党と労働党で政権が交代すると、国営企業が民営化されたり、またその逆があったりした。さらに、経済政策、外交政策が大きく変化したし、社会保障制度もかなり制度変更が見られ、政権交代によって大きく社会・経済が変化したという印象が強かった。フランスやイタリアでは、ときには社会党・共産党が政権に入ったりして、これも大きく制度の変更があった。
とはいえ、現代のヨーロッパ諸国では一昔前のような左右勢力間に鋭い対立はない。例えばイギリスでは保守党と労働党の差は小さくなっているし、ドイツでは保守と社民が連立を組む時代とすらなった。日本においても自民党と民主党の差は、一昔前の自民党と社会党のような大きな差ではなくなっている。あえて言えば、アメリカにおける民主党と共和党の差の程度と言ってよいかもしれない。別の言葉で言えば、強いイデオロギー対立はなく、せいぜいリベラルとコンサーバティヴといった差である。これも偏に世の中からマルクス主義の影響が小さくなったことと、極右の勢力が弱まったからである。
むしろ現代の対立は、公共政策に期待するかそれとも市場原理主義か、家計支援か企業支援か、格差是正か成長か、といったことが争点になっている。今回の政権交代はこれらの争点を巡って、国民は一定の選択を示したと理解してよい。しかし小選挙区制度は国民の少人数が投票行動を変えることによって、政治勢力が大きく変化するという教訓を示した。
一方で、国民は自民党政治のだらしなさに幻滅したことと、民主党による政権交代という標語に魅入って投票した感もあり、もっと政策の差に注目して投票すべしという見方もありえよう。
(生活経済政策2009年10月号掲載)