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明日への視角

公務員労働者の労働基本権回復と日本の労働運動の発展に向けて

棚村博美(全農林労働組合委員長・生活研理事)

 1948年7月、公務員組合と政府の団体交渉が妥結に至らず、ストライキに向けた動きが高揚したとき、連合国最高司令官マッカーサーから一通の書簡が発せられた。このマッカーサー書簡は、公務員のストライキを禁止する措置を時を移さずとれ、と日本政府に指令したものである。これを受けた政府は、政令201号をもって公務員の争議行為を禁止する措置をとり、同年の12月には刑事罰をも加えた争議行為の一律全面禁止、さらには政治活動の禁止を含んだ国家公務員法の改正を強行した。遡ること、わずか1年前、1947年10月に公布された国家公務員法は当然のこととして、公務員も憲法28条にいう「勤労者」として、労働三権の保障を前提としていたのである。
 以後、今日まで60余年、基本権の回復を求める組合の苦闘が続いている。数多くの争議行為などが権力によって処罰され、私たちも労働運動の正当性と権利の確立を求めて闘ってきた。多くの事件が最高裁にまで回付され、一時は通常争議については刑事罰からの解放を示すなど前進を勝ち取る局面もあったが、1973年4月25日に判示された全農林警職法事件に関する最高裁判決は、人事院などの「代償措置論」をもって基本権の制約を合憲とし、以後、この判例が今日まで組合の正当な労働運動を大きく制約してきた。
 2009年9月、公務員の労働基本権回復を政権公約とする民主党連立政権の発足により、基本権をめぐる情勢が大転換することとなった。いよいよ、抜本的な改革に向けて機は熟してきた。公務員制度改革基本法に基づき設置されてきた「労使関係制度検討委員会」も、昨年12月に協約締結権を前提にした論点整理を報告している。公務員労働者の権利と財政民主主義をどう整合させるのか。新たな制度設計に向けた論議はこれから本番を迎える。次の50年、60年に悔いのない結論を出さねばならない。
 日本の労働運動は組織率の低下などに代表されるように多くの困難を抱えている。公務の労働運動が協約締結権を基本に連合運動に寄与できるとすれば、労働者全体に多くの貢献ができるはずである。

生活経済政策2010年5月号掲載