介護保険制度の抜本改革を
横山 純一(北海学園大学教授)
日本の社会保障は、少子・高齢化が進み雇用構造が激変する中で制度のほころびが目立つ。近年、年金、介護、高齢者医療、生活保護などの改革が、個別的に相互の関連をもたないまま行われてきた。国民年金未納者や未加入者の増大は雇用構造の激変と関係するし、年金額が少ない女性の1人暮らし高齢者が増える中で介護保険の1号保険料の高額化と自治体間格差問題が浮上している。生活保護と介護保険とを結びつけた改革がないまま、いわゆる「貧困ビジネス」が起こり社会問題になっている。介護については従事者不足への懸念がある。国民の社会保障制度への安心感、信頼感はかつてないほど揺らいでいる。
日本の国民負担率は発達した産業国家の中でアメリカについで低い。また1970年と2007年を比べれば国民負担率は上昇しているが、主に社会保障負担率の上昇による。日本の社会保障の多くは社会保険で行われていることを反映しているが、社会保険は一般に個人が負担をしなければ給付に結びつかず、租税に比べれば低所得者対策の不足、保険料未納者への未給付や給付抑制、ペナルティなど、ともすれば福祉的な視点が弱くなる点は否めない。今後は、社会保障制度充実の観点から税の役割が重視されなければならない。
私は高齢者介護を税方式に転換すべきと考える。長期間サービス提供が必要なものは保険よりも税の方がよいし、今日、高齢者の支払う保険料は月額4000円を超えており、高齢者の年金水準を考えれば限界に近づいている。20歳からの保険料徴収でしのぐ考えもあるようだが弥縫策にすぎない。また、社会保険料の事業主負担も今後大幅な上昇は避けられない。日本とドイツは労使折半、スウェーデンは本人負担よりも事業主負担が大きいが、スウェーデンでは高齢者介護は税方式で行われ事業主負担はない。日本でも年金や医療で事業主負担を持続する代わりに、介護は消費税と所得税を軸とする方式が考えられてよい。さらに、複雑な介護報酬のしくみがある限り実質的な地方分権が進みにくいことや、介護を有力な内需型産業として起こすには福祉人材への投資が必要だが、介護報酬の引上げが保険料や利用料に跳ね返るために中長期の経済戦略を考えれば税方式がよいだろう。
(生活経済政策2010年12月号掲載)