資本主義・社会主義・エコロジーの融合
広井 良典(千葉大学教授)
資本主義というシステムが、いま数百年単位の大きな曲がり角に立っていることは、2008年秋のリーマンショックや、先進諸国における慢性的な高失業率—筆者が見るところそれは現在の資本主義における構造的な「生産過剰」に由来する—を指摘するまでもなく、確かな事実であるだろう。そしてその「先」に展望される社会システムは、結論を急いで記すならば、いわば「資本主義・社会主義・エコロジー」が融合するような新たな社会像であると私は考えている。
大きく振り返れば、資本主義はその黎明期以降、その“修正”を、いわば「事後的」あるいはシステムの末端部分から、順次「事前的」あるいはシステムの中枢部分に遡る形で行ってきたといえるのではないか。すなわち、当初それは市場経済から落伍した者への公的扶助ないし生活保護という事後的救済策から始まり(1601年のエリザベス救貧法など)、産業化・工業化が本格化した19世紀後半には、大量の都市労働者の発生を前にして、「社会保険」という、より事前的ないし予防的なシステムを導入した。しかし20世紀に入って世界恐慌に直面し、社会保険の前提をなす「雇用」そのものが確保できないという事態に至ると、ケインズ政策という、市場経済への直接的な介入—需要喚起による経済成長を通じた、政府による雇用そのものの創出政策—を開始し、その意味で資本主義のより中枢に向けた修正を行ってきたことになる。
そして、そのように「成長」を維持してきたのが20世紀後半の資本主義の歴史だったと言えるが、冒頭にふれた近年の状況に見られるように、そうした不断の経済成長あるいは資源消費の拡大という方向自体が、根本的な臨界点に達しようとしているのが現在の状況ではないか。
以上の流れの総体を「資本主義の進化」という大きな視点でとらえ返して見ると、それぞれの段階において分配の不均衡や成長の推進力の枯渇といった“危機”に瀕した資本主義が、その対応を「事後的」ないし末端レベルのものから、順次「事前的」ないしシステムの根幹に遡ったものへと拡張してきた、という一つの太い線を見出すことができる。そして、そのようにして経済あるいは人々の欲望が大きく拡大・成長してきた最後の段階(としての定常型社会)において現出するのが、冒頭にも記した「資本主義・社会主義・エコロジーの融合」と呼びうる社会システムの姿ではないだろうか。ここでは詳述する余裕がないが、それは(人生前半の保障など)事前的な分配や「ストックに関する社会保障(住宅や土地所有、相続などに関する社会化)」、コミュニティそのものに遡った対応といった方向を内容とするものとなるだろう。
いずれにしても、大きな視野と歴史的展望の中での社会システムの構想が今こそ強く求められている。(生活経済政策2011年1月号掲載)