介護と仕事の両立から考えるワークライフバランス社会
大沢真知子(日本女子大学人間社会学部教授)
最近、国際会議で知り合った台湾の研究者と一緒に仕事と介護の両立についての研究をしている。この研究テーマが与えられたときにわたしの頭にうかんだのは、老親の介護で離職する女性労働者の姿。ところが、統計をみてみると、介護者の姿が大分変わっている。配偶者間での介護がふえているし、何よりも男性介護者がふえているのである。
先日、長い間介護者の聞き取り調査をされてきた春日キスヨ先生にお会いしたところ、いま中小企業の経営者のあいだでは、独身の男性社員の介護離職が重要な問題になっているのだとおっしゃっておられた。
未婚率も2割をこえ、生涯結婚しないひともふえている。そういう男性が40代に達し中堅社員として育っている。そこで親の介護の問題に直面する。日本の介護は基本的に家族によって担われ、制度がそれを支えている。親が要介護となれば、いずれは仕事の片手間にというわけにはいかなくなり、仕事をやめざるをえなくなる。そうなると社会保険の積み立て年数が少ないために、老後の生活に窮することになる。
先日、男性の介護者のネットワークの事務局長をやられている立命館大学の津止正敏先生にお会いしてお話をうかがった。
先生は、男性の介護離職がこれから大きな社会問題になるとおっしゃったあとに、こんな話をされた。障害児を抱えているお母さんたちは、派遣などの非典型雇用がふえてきたことで救われている。障害児のケアにあわせて、柔軟に働けるので、仕事をする時間はケアから解放される。それによって、ケアによるストレスが減る。「仕事から帰って、我が子をぎゅっと抱きしめることができました」という障害児をケアするお母さんの声が聞かれるのだそうだ。
いま日本では、仕事とケアが両立できる働き方を非典型の働き方とみなしている。しかし、介護はだれでも直面する課題であるとするならば、仕事と家庭(介護)が両立できる働き方こそ典型的な働き方になる必要がある。このような発想の転換をしたあとに、そこに焦点を当てて税や社会保障制度を見直す。このことこそがいまもっとも社会に求められている働き方革命であり、社会保障制度改革なのではないだろうか。
(生活経済政策2011年12月号掲載)