変革への意思が世界を変える
花田昌宣(熊本学園大学社会福祉学部教授)
金融資本主義の妖怪が世界を駆け巡っている。ユーロ金融危機に喘ぐ欧州では、ネオリベラル政策とその破綻を乗り切るための弥縫策としての緊縮政策が、いたるところに失業の増大と貧富の格差の拡大をもたらした。いまや、左右、保革を問わず日常会話の中で資本主義の危機が語られ、危機からの脱出の道が議論されている。
だからこそ、5月6日投票のフランス大統領選挙では、社会党のオランド氏が勝利し、政権転換がもたらされた。アイルランドそしてギリシャと続く財政破綻に象徴的に表れた欧州経済危機への対応策に対して、フランス国民が審判を下した。とりわけ財政規律の維持のためとする消費税の増税と歳出削減、また、産業競争力強化を目的とした企業優遇策が、経済発展に成果を生むことがなく、逆に失業の増大と格差拡大をもたらしたことに対する国民の政権選択であった。仏社会党の勝利は、いかなる社会を望むのかそのものが問われた選挙であっただけに、国民の不満感情の表れではなく、変革を求める意思の表現として受け止められている。
ギリシャの総選挙の結果もまた同様の流れの上にある。ギリシャ国民の訴えは、放漫で無秩序な財政・社会政策の結果という中傷にも似た批判に対して、いったい、そのギリシャに金を貸しこんだのはだれか、そのリスクを背負うことなくギリシャ国民に一方的に押し付けようとする国際金融資本への反撃として理解されよう。
さて日本はどうか。3年前の国民の期待は、沖縄政策のみならず原発政策、年金改革、増税政策を見るにつけ、失望と落胆へと変わった。今年は、沖縄復帰から40年。沖縄は、米軍基地の返還をめぐっての欺瞞と裏切りの連続に県民の怒りは収まることがない。加えて3.11東日本大震災以降、原発事故とその後をめぐってエコロジー的危機を迎えている。いずれも体制の根幹に関わる問題であり、根本的な政策転換が今なお求められている。
労働組合運動の弱体化のかたわら、抵抗する市民の社会運動が各地におき始めている。反面、官僚主導の政治と大阪の橋下人気に見られるようなポピュリズムが、変革の兆しを押し潰そうとしている。日本もまた危機からの脱出への変革の意思が今こそ問われている。
(生活経済政策2012年6月号掲載)