幸福度の議論と経済政策
小峰隆夫(法政大学大学院政策創造研究科教授)
近年、「幸福度」についての関心が高まっている。経済の究極の目標は人々をより幸せにすることなのだから、こうした幸福度の分析が進むのは望ましいことだと思う。しかし、これを「経済政策」という観点からどう位置付けるかについては、慎重に考えてみる必要がある。
内閣府経済社会総合研究所は、2012年3月に大規模なアンケート調査を行って、人々の幸福度を調べ、どんな要素が幸福度に影響しているのかを分析している。この調査によると、おおよそ「所得水準が高くなるほど、幸福度も高い(特に「生活のやりくり」が楽であるほど幸福度が高い)「仕事をしている人は幸福度が高い(失業者は非常に低い)」「結婚している人の方が幸福度が高い」「健康な人ほど幸福度が高い」「学歴が高いほど幸福度が高い」「困難な時に助けてくれる人の数が多いほど幸福度が高い」という結果が得られている。この結果から、私は次のように考えている。
第1に、オーソドックスな経済政策の目標を達成することは、人々の幸せのためにも大変重要だ。経済政策の大きな目標は、サステナブルな形でできるだけ高い成長率を実現し(できるだけ高い所得水準を実現し)、失業率を引き下げ、物価を安定化させることだ。適切な経済政策によってこれらが達成されれば、人々の生活は安定し、失業率も下がるから、人々の幸福感は高まるはずだ。
第2に、幸福度に関係するからといって、政府が直接介入すべきかどうかは疑問だと思われる分野も多い。例えば「結婚している人」「学歴の高い人」の方が幸福度が高いからといって、政策的に結婚や高学歴を奨励すべきかは疑問である。世の中には「結婚しない」「学歴にはこだわらない」という道を選択している人も多いからだ。
政策的に対応すべきなのは「結婚したくてもできない人」や「より高い教育を受けたくても受けられない人」にそれができるような環境を整備していくことであろう。それはまた、できるだけ所得を引き上げ、生活を楽にするということでもある。
第3に、そもそも政策的に対応することが難しい分野もある。例えば、どうすれば「身の回りに助けてくれる人がいる」という状態を作り出すことができるのだろうか。個人のプライバシーを侵さない形で、それを政策的に実現するのはかなり難しいだろう。
このように考えてくると、国民全体の幸福度を高めたいのであれば、政策的には、まずはオーソドックスな経済政策の目標(持続的な成長、物価と雇用の安定)を最大限追求することが必要だと言えそうだ。
(生活経済政策2012年12月号掲載)