育児の社会化を進める市民運動
舩橋惠子(静岡大学副学長・教授)
介護の社会化を進める市民運動におされて介護保険が成立したのに遅れること15年、ようやく子育てを社会全体で支えるための仕組みを構想し実施する時がきた。
少子化社会対策会議のもとに置かれた3つのワーキングチームの検討をふまえ、2012年8月に子ども・子育て関連3法が成立したことは、記憶に新しい。新制度では、市町村が主体となって子育て支援を総合的に推進するとともに、消費税の引き上げ等による恒久的財源を確保することとしており、子ども・子育て支援法に基づいて本年4月から国に「子ども・子育て会議」を設置、地方でも条例に基づいて同会議を設置するよう促している。当事者の参加、幼保一体化、多様な事業主体の参画、施設型給付と地域型小規模保育給付、保育に欠ける子の措置制度から保育を必要とする子の受け入れ制度への転換など、画期的な内容を含んでいる。しかし、政権交代があり具体的なことが決まっていないため、巷に不安が渦巻いている。
世界に目を転じると、多様な主体が多様な保育ニーズを多元的に満たす方向に進んでいる。公的社会保障が手厚く男女が仕事も育児も両立可能な国として理想視されているスウェーデンでも、地方分権とともに保育・教育事業に民間が参入している。公的保育が主流のフランスでも、増加する保育ニーズを満たすために、保育ママ制度の拡充、保育企業や企業内保育の促進が行われている。問題は、保育の質をいかに確保するかであろう。
経済協力開発機構(OECD)教育委員会は、1998年より20ヵ国の乳幼児期の教育とケア(Early Childhood Education and Care、 ECEC)の調査を行い、『人生の始まりこそ力強くⅠ・Ⅱ・Ⅲ』を刊行、ECECの早期利用は、子どもの発達、健康、家族の社会的包摂を助け、未来への公共投資であると述べている。そして、保育の質を確保するために、最低基準の設定、カリキュラムのデザイン、保育者の養成・資格・研修・労働条件の改善、家族と地域の連携、データ収集と評価が必要であると主張する。
今こそ、すべての子どもが力強い人生のスタートを切れる環境を日本に作り出す好機である。地方版子ども・子育て会議を上手く生かす、賢い市民運動が求められている。また三鷹市のように、市民運動を育て活用していく自治体の知恵も求められている。
(生活経済政策2013年3月号掲載)