今日の憲法改正論議に思う
岡部謙治(生活経済政策研究所顧問)
安倍首相が憲法改正に意欲的だ。三分の一が反対すれば多数の国民の意思が反映できないとして、まず96条を改正し過半数で国会発議できるようにすると言う。さらに占領時代にできた憲法なので日本国民自らの手によって作られたものではないとの認識のようだ。
はたしてそうだろうか。憲法の前文、各条文は世界と我が国の人々が長い歳月をかけて獲得した人間の尊厳を謳っている。それ故に改正手続きを厳格にしているのであり、世界的に見ても三分の二以上が共通認識である。ここに到達するまでの過酷な歴史の認識を欠いた憲法改正論議の風潮に危うさを覚える。
戦争放棄を謳った9条の源は1928年のパリ不戦条約である。20世紀は戦争の世紀とも言われる。戦争の惨禍を繰り返さないために第1次世界大戦後、それまでの主権国家による戦争の自由を否定し、国際紛争の平和的処理を追求したものである。まず日本を含む13ヶ国が署名しその後63ヶ国が署名した。その後国連憲章にも採用された。
勤労者の権利を保障した27条28条は、産業革命以来の奴隷のような労働者の状態から、尊厳ある労働の実現は社会の安定に不可欠であるとの共通認識を獲得するため、世界中の労働者の血と汗の闘いの歴史がある。我が国も同様である。
現行憲法は、日本も含む世界の人々の叡智に依っていることを忘れてはならない。安易な改正論議ではなく、憲法が求めている平和主義、国民主権、基本的人権の尊重が我が国においてどうなっているのか、立憲主義の憲法理念に沿った憲法論議とそれを具現化する法律論議が常に行われなければならない。
婚姻を定めた24条は、「婚姻は両性の合意のみにおいて成立し…」とある。戦前の家と家との結びつきを解き放った、成年男女の意思による婚姻は画期的であったと思う。しかしこの条文ではレズビアン・ゲイなどLGBTの人たちは婚姻できない。
LGBTの人権確立に向けて2006年のジョグジャカルタ原則(その後2007年国連人権理事会で採択される)の第24原則・家庭を築く権利は「結婚や法的に承認されるパートナーシップ制度は婚約者或いはパートナーの同意によってのみ成立することを保障する。」と表現している。両性すなわち男女との表現をしていないのである。14条で「すべて国民は、法の下に平等であって、人権、信条、性別…により政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」としている。少数者として差別されている現実をどう解決するのか、憲法論議、法律論議が必要と思う。
(生活経済政策2013年6月号掲載)