望ましいデフレ対策とは何か
柴田德太郎(東京大学大学院経済学研究科教授)
なぜ日本でデフレが起きたのか。その原因は内需不足にある。では、なぜ内需が不足するのか。格差が拡大しているからである。所得が富裕層に偏ると社会全体の消費性向は低下する。格差が拡大したのは労働分配率が低下したからである。規制緩和により非正規雇用が増加し、正規雇用の賃金も抑制されている。その一方で、企業の内部留保は拡大した。所得税の累進度低下などの税制改革も格差拡大の一因であった。
したがって、デフレの根本的な対策は、労働分配率の上昇による内需の拡大である。アメリカが大恐慌から脱出し、戦後に高度成長を実現できた最大の要因は、労働分配率の上昇による内需の拡大であった。しかし、1990年代後半以降の日本歴代内閣はこの根本問題に目を瞑り、弥縫策に終始した。それが、減税・公共投資拡大による財政刺激政策、金融緩和政策であった。その結果が、財政赤字の累積と世界的なバブル発生であった。
世界経済の中心地アメリカでも同様のことが起こった。格差の拡大、規制緩和、金融緩和政策の組み合わせが低所得層向け住宅金融の拡大を生み出し、この住宅バブルが一時的に内需の拡大を支えたのである。だが、この不健全な住宅バブルがはじけると世界金融恐慌が発生し、世界的に需要は縮小に向かった。金融緩和と規制緩和に依存した投資刺激政策はバブルを生み出すのである。
アベノミクスは、[1]量的金融緩和政策、[2]機動的な財政政策、[3]成長戦略、という3本の矢を打ち出している。だが、この対策はこれまでの弥縫策の延長線上にある。[1]日銀が国債を購入して金融市場に大量の資金を供給しても実需が拡大するとは限らず、バブルの温床となる。[2]財政出動による景気刺激の効果は一時的であり、消費税引上げは逆進性を持つので、格差の拡大が内需低迷に拍車をかける。[3]雇用制度改革は雇用の流動性と弾力性を高め、労働分配率低下を促進する。
望ましいデフレ対策は次の2つである。
[1]正規雇用の拡大と賃上げにより、労働分配率の上昇を実現すること。
[2]消費税は生活必需品に軽減税率を採用し、所得税は累進性を高めるなど、財政の所得再分配機能を復活させること。
(生活経済政策2013年11月号掲載)