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明日への視角

住民の声を聴き、サービスをつくる

沼尾 波子(日本大学教授)

 被災地の避難所で支援物資を配る手伝いをしたことがある。物資の配給方法が、民間団体と役所で異なっていたことが印象に残っている。民間団体では、物資が運ばれてくると、早いもの順にどんどん配給を行う。だが、役所では、全員分の確保ができた物資のみを配っていた。行政が一部の人たちだけに物資を配れば、受け取ることのできなかった住民から不平不満や苦情が出る、というのがその理由だそうだ。
 「お上」は全ての「民」に等しく対応すべきで、その基準は明確であるべきだという考え方が、まだこの国には根強いのかもしれない。そしてまた、基準を明確に示すことで、役所は住民の「信用」を得てきたとも言えるだろう。
 だが、その画一的な基準がもたらす課題や弊害が目につくようになっている。数が足りないという理由で物資が配られないのはもったいないことであり、その配分方法について住民の合意が得られさえすれば、資源を有効に活用することもできる。
 本来、分権化や民営化に期待されていたのは、こうした画一的なルールを超えた柔軟な対応にあったはずだ。住民に身近な行政であれば、地域固有の課題を踏まえ、住民の声を聴き、その地域で必要なサービスを把握できる。また民営化を通じて民間団体がサービスを供給できれば、画一的・均質的なサービスにこだわることなく、柔軟な対応を図ることもできる。
 だが、行政が画一的・均質的な対応を離れて、多様化・複雑化する個別のニーズに柔軟に対応することは容易ではない。住民一人一人のニーズを探るとともに、行政が何を行い、地域で何を行なうかを、話し合いによって決めなくてはならない。
 残念なことに、行政はこのような対応をあまり得意とはしてこなかった。また、職員数の削減や、民営化・民間委託が進むなかで、地域の人々と意思疎通を図り、合意をつくるには、これまで以上に時間と労力がかかる。
 とはいえ、役所を表す「庁」の旧字体は「廰」である。「广(屋根)」の下でしっかりと民の声を「聴」くことが、役所の使命ということだそうだ。地域の声を拾い、地域住民の納得と共感が得られるよう、話し合いの場を創り、運営していくことが、今の行政に求められているのではないか。

生活経済政策2014年10月号掲載