ナショナルセンターとしての春闘
高木 郁朗 【日本女子大学名誉教授】
2015年の春闘の賃上げ交渉でトヨタがベースアップ分を4000円で妥結ということになった。定期昇給分を加えると1万円の水準を超えることになる。今日の春闘ではトヨタの労使がパターンバーゲニングの位置をもっており、他の大手企業においてもこれを基準、あるいは上限とする妥結が行なわれ、最終的には定期昇給分を加えてほぼ額で1万円弱、率で3%程度の賃上げ妥結ということになろう。春闘としては久しぶりの高い水準である。
だが、賃上げの面にかぎっても、これでひとまず安心ということになるのか。大きな問題は、ほぼ1997年頃を起点にして進行してきた日本の賃金構造の悪い変化を修正できるかどうか、ということにある。悪い変化はさまざまにあるが、もっとも大きなものは格差の拡大にほかならない。過去1年の賃金統計をみても、企業規模間、産業間、正規・非正規間、地域間のいずれもで、相対的に高い分野が一定の賃金引き上げを確保しても、相対的に低い分野では賃上げがそれより低いか、マイナスになっているという状況がはっきりあらわれている。
たしかに、利益が確保されている個別の企業で、労働組合がしっかり交渉を行い、とれるだけの賃金をとることは不可欠である。マスメディアでは、それがどこまで波及していくかが課題だというが、実は今日の日本では、このような波及のメカニズム自身が失われてしまっていることが問題である。
ということは、賃上げを個別の企業の労使交渉の積み上げにまかせるというだけではなく、ナショナルセンターが全労働者的に賃上げを実現しうる春闘を組織しなければならないことになる。たとえば、いま最低賃金の先進国の国際基準は時給1000円を超えているのだから、現在加重平均で780円の地域最低賃金を毎年50円づつ引き上げるために、たとえ15分でも全組合がストライキを行なうように連合が方針をたてる、といったことは不可能だろうか。
むろんほかにもいろいろな手段が考えられるが、集中決着日である3月18日で春闘が終るというのではなく、ナショナルセンターとしての春闘がそのあとにもう一度連合によって展開されることを期待したい。
(生活経済政策2015年4月号掲載)