連帯社会とサードセクター
栗本 昭 【日本労働文化財団連帯社会研究交流センター副センター長・(公財)生協総合研究所理事】
この4月に連合のイニシアティブにより、労働者福祉事業団体や日本生協連など幅広い組織の賛同を得て、労働組合、協同組合、非営利組織の将来のリーダー養成のための大学院として法政大学・連帯社会インスティテュートが発足した。この機会に、連帯社会とサードセクターの役割について考えてみたい。
〈連帯社会とは何か〉
ここでは連帯社会を暫定的に「連帯に基づく市民社会」と定義する。連帯とは「異なる個人・集団の自立に基づく協同」であるが、これは消費者としての市民と生産者としての市民(労働者、農業者等)の利害の対立と協同という両側面を含む概念である。
社会とは「人間の集団としての営み」であり、その中には政治や経済も含まれる。カール・ポランニーは『大転換』のなかで「社会に埋め込まれた経済」から市場経済が自立化し、それが暴走すると社会が崩壊するという分析を提示したが、近年のグローバル化、情報化の中で経済や金融が肥大化し、社会を振り回すという逆説的な状況が生まれており、これを再び社会の中に埋め込むことが求められている。
連帯社会のビジョンとは何か。連合のビジョン「働くことを軸とする安心社会」、日本生協連の2020年ビジョン「私たちは人と人がつながり、笑顔があふれ、信頼が広がる新しい社会をめざします」は連帯社会のビジョンと多くの共通点をもつ。
〈連帯社会におけるサードセクターの役割〉
産業革命後、労働者は労働組合、協同組合、共済などの相互扶助組織を生み出し、老齢、疾病や事故、失業などのリスクに備えるための年金、健康保険、雇用保険等の制度を作り出したが、その多くは国民皆年金・皆保険をめざす福祉国家に吸収された。これはメンバーが限られた「小さな連帯」からすべての国民を対象とする「大きな連帯」への転換として肯定的に捉えられた。しかし、人口の超高齢化と財政危機のもとで社会保障制度は見直しを迫られており、サードセクター組織による補完的生活保障の役割が高まっている。また、近年のグローバル化は雇用の劣化と格差の拡大、社会的排除・孤立の増大、地域社会の崩壊という否定的な側面を生み出している。このような環境のもとで、雇用の質の向上、格差の縮小、社会的包摂をめざす連帯社会におけるサードセクターによる社会関係資本の醸成と市民社会の強化が求められている。
(生活経済政策2015年5月号掲載)