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明日への視角

安倍首相はもう裸の王様だ

村上 信一郎【神戸市外国語大学名誉教授】

 9月8日告示の自民党総裁選挙で安倍晋三首相は無投票での再選を決めた。午前7時半から東京・永田町のキャピトルホテル東急で始まった出陣式では、品格と知性に輝く厚化粧の自民党靖国族・国防婦人会の大臣や議員にしっかりとガードされて終始ご満悦、「まちがいなく、雇用も収入も向上している。あとは、しっかりと経済の好循環を回しながら、全国津々裏々に景気の実感を届け、完全にデフレから脱却し、未来に向けて経済を成長させる」と述べた。そして「まだ道半ば。継続は力なり」とも。
 だが、この期に及んで、アベノミクスのトリクルダウンをまともに信じて、この国の経済成長に期待しながら将来設計をしている若者など一体どこにいるのか。あなたの年金はどうなると思いますかと聞いてみるだけでいい。異口同音に、まともにもらえるなんて考えていませんよという答えが返ってくるはずだ。
 安部首相が日銀の黒田総裁と仕掛けたアベノミクスという壮大な錬金術が、総額1053兆円、国民一人当たり830万円に及ぶ膨大な借金で賄われていることは誰でも知っている。日銀や公的資金の運用により株価だけが人為的に釣りあげられているのも周知の事実だ。それを承知で、一介の庶民が一攫千金を夢見てテイク・リスクしても、とんでもないしっぺ返しを食らうのが関の山。結果は自己責任。自業自得。まともな若者は夢など抱かない。今の若者の多くは、けなげにも自己責任を全うしようとしている孤独な運命論者である。
 怨嗟の呻き声が深い地鳴りとなってどよめいている。新国立競技場やエンブレムの八百長に対する不満の爆発もその表れのひとつだ。安倍政権が安保法制を成立させても、それは安倍政権の終わりの始まりでしかない。マグマと化した民衆反乱がひたひたと安倍政権の足元にまで及んでいるからだ。積極的平和主義が70年間戦争をしなかった戦後日本との訣別を告げる大本営発表だということは憲法遵守を誓った明仁天皇も含めみんな知っている。
 安倍晋三は嘘つきである。あれだけ拉致家族を籠絡し政治利用したのに、拉致被害者は一人も帰ってこない。それでも「まだ道半ば。継続は力なり」と言い続けるのであろうか。

生活経済政策2015年10月号掲載