労働組合運動の復権に向けて
高橋 伸彰【立命館大学教授】
清水慎三(『戦後労働組合運動史序説』)によれば、戦後70年のなかで「労働組合が資本にたいして自主性、自立性をもった経験は…敗戦からドッジ・ラインまでのわずか4年間にすぎない」。それ以降は「日経連を旗振り役として『経営権の確立』が強調され、民間大企業を先頭に…労働組合を企業内に追い込み、労働者を経営専制の企業秩序に緊縛し…戦後労働運動の基礎単位を企業別労働組合として定着させた」と言う。この結果、1950年代半ばから1980年代にかけて「大企業の本工労働者は企業帰属から企業従属へ…企業社会への包摂統合の道をたどった」と指摘。この道は現在も健在であり「現代日本の最強力の基礎単位は企業社会」だと言うのだ。
実際、労働組合の組織率を見ても1949年の55.8%をピークにして、翌50年には46.2%と僅か1年で10%近くも下がり、高度成長が始まる55年には35.6%にまで低下した。その後70年代半ばまでは安定的に推移したが、83年には30%を、また2003年には20%を割り込み、現在(2013年)は17.7%にまで落ち込んでいる。もちろん、組織率低下の背景には経営側の巧妙な労組攻撃だけではなく、産業構造の変化をはじめ多様な要因が潜んでいる。ただ、いま問われているのは、未来に向けて日本の労働組合が「職場の労働者生活を擁護しうる存在として」(河西宏祐『労働組合「再生」の基盤』)復権できるか否かである。
熊沢誠(『労働組合運動とは何か』)は、現在を生きる労働者が「就業においてこそ貧困になり、仕事においてこそ心身の疲弊にさいなまれている」のは、企業内組合の枠を超えられずに賃金をはじめ「労働条件の規範や標準というものを…社会的な規模で樹立することができなかった」労組運動にあると批判する。この批判を労組のリーダーはどう受け止めるのか。真に復権を目指すなら民営化されたかつての公企業も含め大企業の労働組合は、いまこそ共に働くすべての労働者のために企業や職域を超え「身体を張り身銭を切った」運動を実践してほしい。
(生活経済政策2015年12月号掲載)