震災復興の今後
池上 岳彦【立教大学経済学部教授】
2011年3月11日の東日本大震災から5年経った。「千年に一度」の巨大災害に対して、これまでの「集中復興期間」に25.5兆円、今後5年間の「復興・創生期間」に6.5兆円、合わせて32兆円の復興事業が展開される。
2016年4月に発表された会計検査院報告によれば、14年度までの復興予算29.4兆円のうち5.5兆円が執行されず、地方自治体に交付した資金も3.7兆円が未執行である。これは用地確保の難航や事業計画の変更によるものとされる。
復興庁と事業官庁は国庫補助金等を駆使して所管事業を推進し、総務省はそれを震災復興特別交付税等で支えてきた。関係府省はそれぞれの課題に取り組み、その論理に沿った復興が推進されている。
それに対して、被災自治体では首長と議員が選挙で選ばれ、揺れ動く地元の意向をくみ取りつつ府省が設けたメニューから事業を選ぼうとする。たとえば、津波で甚大な被害を被った市町村では、役所の体力が低下したにもかかわらず、集団移転、公営住宅建設、避難計画、公共施設再建、土地区画整理、保健福祉、産業再生等々、課題が山積している。復興構想や地域利害をめぐる対立も発生するため、事業の方向やスピードは多様である。これを府省からみれば「あの町は取り組みが早い」「この町は動きが遅い」という評価になる。
住民が日々の暮らしを必死に再建しようとしているうちに、海岸に巨大な防潮堤が出現したところもある。「海が見えなくなるような防潮堤はいらない」といった運動が早くから盛り上がらない限り、公共事業は着々と進められる。府省と被災現場とでは意思決定のペースが同じとは限らないのである。
震災復興の今後について、地域それぞれの姿と住民の生活・生業を重視するためには、被災自治体の主体的事業を中心とする復興財政システムが求められる。それは、地域ごとの防災・減災計画を整備するとともに、地方一般財源を主軸とする復興財政システムを確立することだ。
4月14日、震度7の「熊本地震」が起こり、その後連続した地震で大きな被害が発生した。震災の経験を「風化」させている暇はない。震災は他人事ではない。
(生活経済政策2016年5月号掲載)