日本農業の将来
田中 学【東京大学名誉教授】
近年、日本の農業をめぐる大きな問題と言えば一つはTPP問題であり、もう一つの、ある意味でより深刻な問題は、人口減少(少子高齢化)社会に伴う、農業就業者の高齢化と若者の新規就農者の激減である。
前者はすでに昨年10月に参加国間で一応の合意を見ており、今後の推移は各国議会が批准するかどうかにかかっている。
後者の問題は、社会的・経済的な構造問題であるだけに、単なる農業だけの問題ではない。産業としての農業を見ると、近年では総生産高で3兆円程度に過ぎない。日本農業といえば、まず誰もが思い浮かべるのは「米」であろう。しかし、供給ベースでみると、畜産物が全体の約3分の1で第1位、次が野菜類で米は第3位である。米については、人口1人当たりの消費量の減少などの理由が考えられるが、このような農業生産の構造変化は日本農業の将来にどのように影響するのであろうか。
農業については、まず食糧生産という人間にとっての基本的役割があげられる。ただ、最近は農業の存在が、自然や環境の保護、さらには資源の保存の為にも不可欠であるという、認識が広まりつつある。そうした視点から農業の現状をみると、耕地面積は1960年当時の607万haから452万haに減少し、何の作物も栽培されず放置されている、いわゆる耕作放棄地あるいは荒廃農地面積は27~28万haに及んでいる。
他方、農業就業者の現状をみると高齢者が大部分で、49歳以下は14%にすぎない。このまま行けば、農業後継者はいなくなってしまうのではないかと誰もが思うことである。そこで、いろいろな試みがなされている。例えば、集落営農である。もともと日本の農業は集落単位で共同作業などが行われてきた。だから、新しく営農集団として生まれ変わっても不思議ではない。だが、やはりその場合でも新規就農者は必要である。
農業については、さまざまな保護・助成策がとられて来たではないか、という主張もあろう。ただ、農業を個別農産物の価格で評価するのはいかがであろうか。
その自然保護や資源保全についても何らかの価値評価が考慮されるべきではなかろうか。
(生活経済政策2016年6月号掲載)