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明日への視角

ドイツの原理主義政治と日本のご都合主義の政治

住沢 博紀【日本女子大学教授】

 少し前、東京で欧州議会の政治家やドイツ・エーベルト財団の関係者らと話す機会があった。5月の伊勢志摩サミットを控え、また4月に菅直人氏がフランクフルト市などから「脱原発勇敢賞」を受賞したこともあり、彼らの「脱原発」の政治家、菅直人への評価は驚くほど高いものであった。浜岡原発の停止要請などいくつかの功績はあったにせよ、首相としての菅直人氏は失敗した政治家であるという私の主張は、その場では少数意見であると退けられた。
 伊勢志摩サミットで、安倍首相が唱える財政出動を柱とする景気回復論に立ちはだかったのは、財政規律と構造改革を唱えるメルケル首相であった。1000兆円を超える累積赤字を持ち、福島原発事故に遭遇しながらも40年の原発運転年数をさらに20年延長しようとする安倍首相は、おそらくメルケルにとっては理解不能な政治家に映ったであろう。
 ドイツ中道政権の脱原発路線も、厳格な財政規律も、さらには難民受け入れも適切な政策ユニットといえるだろう。しかしそれが「正しい政策選択」として上から目線で唱えられるなら、反発する国や国民も生まれる。6月23日のEU離脱をめぐるイギリスの国民投票は、難民や移民の流入が直接の政治テーマであり、ドイツ優越問題との関連は少ない。しかし自分たちの普遍的な正しさに自信をもつドイツの原理主義政治は、ナショナリズムが復活する現段階での欧州ではリスクを併せ持っている。
 翻って日本の安倍政権をみると、ドイツの対極にあることがわかる。福島原発事故や地震多発の下での原発継続、高齢化の進行や財政赤字の累積のもとでのばらまき財政や消費増税の延期、アベノミクス成功の主張、TPP・安保法案・憲法改正・消費増税など、真に議論すべき重要政策の国会・選挙での争点隠しとメディア操作。その政策の多くは何の根拠もなく、持続可能性の検討すらされていない。その結果、奇妙なことに、メルケル・ガブリエルのドイツ中道政治より、「ご都合主義」の安倍政治のほうが安定しているように見える。しかし一度、日本を外から見れば、安倍政治の行く先に幸福なことは何もないことがわかる。「痛い目に合わないとわからない」日本の特質を、私たちは克服することができるのだろうか。

生活経済政策2016年7月号掲載