世界経済停滞のなかで「内」・「外」に深まる亀裂
井上 定彦【島根県立大学名誉教授】
ますます時代は21世紀らしくなってきた。イギリスの欧州連合からの離脱という国民投票結果をみてそう感じた。今世紀に入って16年もたち、20世紀での旧「二大体制」時代終焉の時点からみれば、もはや四半世紀ということだ。
「ポスト冷戦四半世紀」の間においての米・ソ関係を意識した地域統合のあり方や二国間関係の動きは、内からと外からの両方の変容圧力にさらされる。「内」も、もとの国民国家の間という「内」とそれぞれの国の中のなかでの社会階層という「内」での亀裂がある。「外」というのも、もとのような隣人としての大国(旧ソ連、現中国等々)との関係だけでなく、世界にひろがる波状テロの連鎖という、とらえにくい「外」も加わった。インフレーション対策一辺倒の時代は昔語りとなり、いまは「デフレ脱却」が国是。「異次元」「質的量的緩和」、「ゼロ金利」そして「マイナス金利」となって(日本・欧州のみならず米も似た症状)、世界経済の「長期停滞」(L. サマーズ)は定説化した。
経済のグローバル化に対しては、欧州連合のマーストリヒト条約がめざしたような「政治・経済・社会」の統合を一体的に進めることしかないのでは、とのわずかな希望があった。それが新自由主義的なカラーの経済統合(市場―労働を含む・通貨統合)の先行、そして各国内の社会層の分裂、それを起点とする新ナショナリズム台頭の懸念、という苦い現実に直面した。世界規模で実証された「格差社会」(トマ・ピケティ)、そしてその内実の一部もあきらかになるなかで(「パナマ文書」、変幻自在な富の逃避先)、もとの「国民国家」の枠組み、か細い国際協力では捕捉・是正はとてもおぼつかない。主要国(中国を含めて)での社会の分極化、二層化(「エリート層」と「非エリート層」)はさらにひろがる。
なかでも、日本は「社会課題先進国」。「ワーキング・プア」、非正規労働と「貧窮」のひろがり、長時間労働、そのための出生力低下が日本社会と経済社会停滞の基本背景であることは知られはじめた。私達の課題というのは、いずれも明確なのではあるが。
(生活経済政策2016年8月号掲載)