デモクラシーの基盤を市民政治から考える
坪郷 實【早稲田大学社会科学総合学術院教授】
2011年3.11は、日本政治の転換点であると考える。一連の国政選挙、直近では2016年参議院議員選挙において、安倍自公政権は経済問題を前面に出して、圧倒的な勝利を収めている。しかし、「一強多弱の政党政治」では他の選択肢はなく、安倍自公政権の支持は「弱い支持」であるといわれる。しかも、重要な政策に関する世論の多数と自公政権の政策との間には乖離がある。脱原発、特定秘密保護法、安保法制などをめぐる一連の自公政権と世論の乖離は、日本の政治に新たな社会運動の流れを生み出している。3.11が、全国の地域で脱原発の対抗デモを生み出し、2012年からの毎週金曜日の「反原発首相官邸前抗議」を継続させ、安保法制をめぐって、大学生によるSEALDs、高校生グループ、ママの会、学者の会などによる国会前集会とデモが行われ、各地での動きが活発になっている。こうした社会運動は、街頭でのデモクラシーの復活といわれる。
このような政党政治と世論の乖離を乗り越えて、現在の「一強多弱」の政党政治の作り直しを行うには、どのような可能性があるだろうか。その一つとして政党政治と次のような市民政治をつなぐ方向性があろう。この市民政治は、地域で市民活動や協同組合によって展開されている。地域の市民たちは、独自の調査活動を通じて政策の種をつくり、市民活動を通じて共通課題を政策化し、問題解決に向けて自治体や国の政府に政策提案を行っている。例えば、生活クラブ生協など協同組合は、「食・エネルギー・ケア(参加福祉)・ワーク自給圏づくり」を掲げて、活発な地域活動を行っている。例えば、「こども食堂」の活動は、食を通じて地域における多世代の多様な人々が交流できる場を作りながら、一人ひとりの子どもの問題に接近している。さらに「人権と多様性を大事にする地域づくり」、「地域の一人ひとりを支援する仕組みと当事者の参加の仕組みを大事にする参加型地域福祉」の事例、「地域で再生可能エネルギーを普及拡大させる市民電力を立ちあげ、地域の雇用を生み出し地域経済の活性化を行う」事例などがある。
地域におけるこのような事例を積み重ねながら、地域におけるデモクラシーの基盤を強固にしていくことを、政党政治の次なる再編につなげることが要であると考える。
(生活経済政策2017年3月号掲載)