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明日への視角

自動化・AI化時代の労働と生活保障の近未来

高端正幸【埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授】

 「AIが雇用を奪う」という昨今はやりの議論は、やや過熱気味でSFじみた面もあるとはいえ、真正面から受け止めるべきメッセージも含んでいる。
 国家的プロジェクトとしてIT・AIの導入による製造業の生産性向上(インダストリー4.0)に乗り出すドイツでは、最大の産業別労働組合であるIGメタルが官民一体の「プラットフォーム・インタストリー4.0」に参加し、「雇用と職業訓練に関する第5作業部会」をリードしてきた。同部会は、今年3月に、労働現場の変容に呼応する職業教育の刷新についての提言をまとめている(『週刊エコノミスト』2017年6月27日号)。
 革新的な技術は、導入の仕方によっては確実に雇用を奪う。ゆえに、導入の仕方が鋭く問われる。拒否するでもただ懸念するでもなく、現実と向き合い、労働者が針路決定に主体的に関与すべき段階の到来を、ドイツの事例は物語っている。日本でも連合などが問題意識を高めていると聞くが、「労働なきコーポラティズム」の国において、労働者が事態を主体的に制御することはいかにして可能となるのであろうか。
 また、AIが一握りの高所得者と大量失業者の世界を生むという予測と合わせて、ベーシック・インカム(BI)の導入がしばしば言われる。それを「労働の呪縛からの解放」として肯定する向きもみられるが、「労働の呪縛をBIが解く」ことと、「労働の機会を奪われたのでBIを与える」ことの人間にとっての意味は全く異なる。人は自らの尊厳を社会的有用感によって確かめる面を持ち、かつ、雇用されることが社会的有用感の主たる源泉である社会を20世紀以降の私たちは生きてきた。社会参加の形は営利企業で働くことに限らない。しかし、雇用の減少に呼応して多様な社会参加の機会(たとえば市民活動や地縁的・互助的活動など)が自然に拡大するわけではない。それは、私たちが主体的に作りだすべきものである。
働くことと、尊厳が保障されることという、近代以後の普遍的な論点を改めて受け止め、社会を能動的に編みなおす。過剰気味のAI脅威論からなお掬い取るべきは、そのことの重要性ではないだろうか。

生活経済政策2017年8月号掲載