「春の全国火災予防運動」
増田光儀【日本郵政グループ労働組合中央執行委員長】
毎年、この季節になると「春の全国火災予防運動」が始まる。
目的はもちろん、火災予防への関心を普段以上に高め、火災の発生を防止することにあり、消防庁や各自治体などが中心となり、様々な啓発活動を展開する。
今の時代、火を扱う家庭内機器の性能はますます安全性を増し、万一、火災が発生してもいち早く察知する機器や住宅そのものの耐火性など、火災を封じる技術は進化し続けているが、それでも火災発生の報道を目にする頻度は決して低くはなく、粘り強く意識を高めていくことが重要だ。
ふと、某大学教授がかなり以前、何かの講演で消防署と労働組合は似ているといったような話をしていたと雑談で耳にしたことを思い出した。
それによると、共に普段はあまり目立たないのだという。消防署は火災のない時は、防火の啓発に努め、いざという時のための消防訓練を欠かさない。住民からみれば普段から殊更に意識されるものではないが、ひとたび火災が発生したなら、持てる装備と日頃の訓練の成果を以て全力で消火活動に当たる。労働組合も日頃から労働問題が発生しないよう、職場改善や労使間の円滑な意思疎通、教育活動等の取り組みにより、トラブルの未然防止に努め、チェック機能を果たしている。そして一朝事あらば解決の方向性を定め、組織として一致団結して対応して行く。両者ともあってあたり前という安心感、そして「いざ」という時の頼れる存在感が似ているということなのだろう。
しかし、長時間労働の是正や処遇の均等待遇実現など、労働者保護の法整備は未だ発展途上にあり、残念ながら長時間労働などで立場の弱い労働者が犠牲になるといった記事が幾度となく報じられる状況にある。
今号はまさに春闘の真っ只中。同じ「春」の活動でもこちらは少し趣を異にする。日常の取り組み、運動が大切であることに変わりはないが、この時期、労働組合にとっては、その存在意義を示さなければならない「いざ」という時と言えよう。個々の業界の事情もあるし、置かれている環境も様々だが、働き方改革をはじめとする、これからの「働く者」のあり様に影響する交渉は待ったなしである。例年の春よりも一層気を引き締めて臨まなければなるまい。
雪解けの季節といえど、まだまだ乾燥の続く季節、火の始末に怠りなく。
(生活経済政策2018年3月号掲載)