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明日への視角

ヨーロッパのポピュリズム

田中素香【東北大学名誉教授、中央大学経済研究所客員研究員】

 ポピュリズムといえば、トランプ大統領の「アメリカ第一」が物議を醸しているが、欧州諸国でもポピュリズム政党の影響が強まってきた。
 EUではリーマン危機にユーロ危機が続き、ドイツなどが南欧危機国に財政緊縮を押しつけて左派ポピュリズム(以下、Pと表示)の台頭を刺激した。15年から16年のEUへの100万人を超える難民・移民の流入はEU各国の右派Pの躍進につながった。
 EU28カ国では、2013年から18年初めまでに、合計43の新党ができた(うち26は東欧諸国)。多くはP政党とみられる。共通するのは政財界などのエリート・既存秩序への反発だが、右派Pは自国第一で反移民・反EU、左派Pは不況・大量失業で恵まれない人々の救済を強調し多くは国際主義、東欧新興国PはEU先進国との経済格差や先進国本位のEUの運営に反発する。
 日本では「大衆迎合主義」と批判的にみられているが、Pの台頭には理由がある。1980年代から米英両国が主導した自由資本主義・グローバル化のなかで広がった所得格差、資産格差への反発である。左派Pや東欧Pも広い意味での格差に反発する新政治運動である。
 昨年9月のドイツ総選挙では極右P政党AfD(ドイツのための選択肢)が第3党に躍進した。東独の支持率が高く、東独主導の「ドイツ第一」「反移民」「反メルケル」運動である。東独はナチスの過去への反省が薄い。その影響が右派色の強い南部バイエルン州などに波及し、メルケル政権内部で対立が生じている。
 イタリアでも3月総選挙の結果、左派・右派のP政党の連立政権が6月誕生した。イタリア第一、反移民、反EU、財政バラマキを主張し、ユーロ離脱への懸念もある。
 6月末のEU首脳会議を皮切りに難民・移民対策、南欧諸国支援など新規のEU政策の策定が進むであろう。米中露など大国主導の世界情勢の中でEUが混迷を続けるわけにはいかない。EU統合が欧州Pにどう対応していくのか、注目が必要だ。

生活経済政策2018年7月号掲載