シビックテックと政治家の役割
辻由希【東海大学准教授】
どちらが勝ったとも言えない(という意味で総合的にはトランプ大統領を利する)結果となったアメリカの中間選挙であったが、同日に投開票されたカリフォルニア州知事選挙で当選したギャビン・ニューサムは、二つの点で日本でも「知る人ぞ知る」的に有名な政治家である。一つは、2004年にサンフランシスコ市長であったとき、アメリカで初めて同性のカップルに結婚許可証を発行して大きな注目を集めた。ニューサムは今回の州知事選挙でもトランプ大統領の「分断の政治」への対抗姿勢を明確にして戦い、勝利した。
もう一つは、シビックテックの推進派としてである。日本でも出版された著書では(邦題『未来政府-プラットフォーム民主主義』稲継裕昭監訳、東洋経済新報社、2016年)、政府が保有する膨大なデータを市民に無償で公開することで、地域課題の解決を市民の自発的な参加と創造性(アイディア)に委ねようと呼びかける。ICTの発展が市民参加のコストを下げ、オープンデータは政府の透明性を高めより公正で効率的な行政を促し、これまで縦割り行政の下で点在していた情報と地域資源を新たな形で組み合わせることで地域課題の解決に寄与すると主張される。日本でも近年、財政難と公共サービス需要増大のギャップに苦しむ自治体からシビックテックは期待されている。
シビックテックは政府と市民の距離を近づけ、市民が文字通りガバメントの一員となるという意味で民主主義の本来の姿を取り戻すというニューサムは、政府の役割は市民が政策プログラム開発を競うための場、すなわちプラットフォームを用意することだという。一方、政治家のリーダーシップは必要だとも述べている。
カリフォルニア州では2008年、州民投票で同性婚を非合法とする「提案8号」が可決されてしまった。その後、提案8号を違憲とする連邦最高裁判決を勝ち取るまで、4年にわたる裁判闘争が展開されていく。ICTで州民投票の投票率がもっと上がったなら、そもそも提案8号は可決されなかったのだろうか。シビックテックやプラットフォーム民主主義のデザインに、少数者の権利侵害を抑制するメカニズムを持たせられるのか、その中で政治家はどのような役割を担うべきなのか。新しい技術は古典的な問いを突きつけているように思われる。
(生活経済政策2018年12月号掲載)