アメリカの時代の終わりと日本外交の針路
遠藤誠治【成蹊大学法学部教授】
トランプ政権は常識外れの外交政策を展開してきた。アメリカ由来の国際政治学に則れば、アメリカは世界に安定と繁栄の基礎となる国際公共財を提供してきたのだが、もはやその影もない。地球温暖化防止にかかわるパリ協定、TPPなどの多国間枠組みから離脱などの一連の行動は、共通の利益に基づきルールに則った国際関係を作るという多国間主義の破壊だといってよい。アメリカは、もはや他国に利益をもたらす恵み深いヘゲモニーなどではない。
アメリカの単独行動への傾斜は各地で問題を起こしているが、イランとの核合意(JCPOA)からの離脱のインパクトは巨大だ。多国間枠組みの中でイランの核兵器開発を停止させ、安定的な外交関係の樹立へ向かうプランが破棄された。その帰結として、イランの限度を超えたウラン濃縮、謎をはらんだタンカーへの攻撃、ドローンの撃墜合戦などが続き、政治・軍事的な緊張が一機に高まっている。もともとアメリカが作った軍事的緊張でもあり、ヨーロッパ諸国は「有志連合」には慎重な姿勢を取っている。
かたや日本は? この問題に限らず、安倍政権は、アメリカに抱きつくような政策を展開してきた。中国の台頭が気になる日本では、アメリカの関与を確保するために、さまざまな難題を飲み込んできた。戦略的な価値や費用対効果などの検討がほとんどなされないまま、F35戦闘機やイージス・アショアなど膨大な費用がかかる防衛設備をアメリカの言い値で買い受けることにした。それで自動車をはじめとする2国間貿易交渉を少しでも有利にしたいという期待があるのかもしれないが、果たしてその期待は実るであろうか。
アメリカが秩序破壊的な行動を持続的に取る場合、日本はそれに追随しているだけで良いのか。アメリカの力が相対的に弱体化していく中で、アメリカの軍事力が日本をより安全にするという神話を信じているだけで良いのか。そろそろ本当に本気に自分の頭を使って、東アジアに安定的な秩序を作るための外交政策を考えなければならない。
(生活経済政策2019年8月号掲載)