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明日への視角

わかりやすい政治

杉田敦【法政大学法学部教授】

 ポピュリズムの定義はなかなか定まらないが、私の暫定的な定義は、「わかりやすい政治」である。政治とは、そんなに簡単なものではない。あちらを立てればこちらが立たず。どこかを改革すれば別のところに矛盾が噴出してくる。だからこそ、さまざまな調整を行わなければならず、物事はそう簡単に運ばない。しかし、グローバル化する経済の中で、生活を脅かされ、いら立っている人々は、そういう悠長なことでは満足せず、単純な「解決策」に飛びつきがちである。
 「わかりやすい政治」は、「われわれ」の敵たる「彼ら」を名指しする形で行われることが多い。それが直観と感情に訴えるからである。「諸悪の根源」として移民が標的となり、近隣諸国への憎悪が煽られる。公務員や公共放送への攻撃も人気だ。市場原理では確保できない領域を担う公的部門は必要だが、自らが厳しい競争にさらされている人々には憎まれる。EUを離脱すればバラ色の未来が開けるとか、「二重行政」の解消で大都市再生といった話も、耳に心地よく響く。もちろん、これらの「解決策」が有効なら良いのだが、かえって混乱を引き起こし、矛盾を先送りするだけになりかねない。
 戦後ヨーロッパで福祉国家化や人権保障を推進した社会民主主義政党は、軒並み凋落した。日本でも中道左派政党が伸び悩む一方で、赤字国債に頼ってでも消費税の廃止を説く「わかりやすい」政治勢力が台頭している。しかし、中道左派政党の歯切れが悪いのは、単に彼らが無能で頑迷だからなのか。閉じた国民経済を前提として、高福祉と高負担をバランスさせるという社会民主主義的な政治が、経済のグローバル化に伴って構造的に困難となったことを、彼らが意識しているからではないのか。
 現代史を振り返れば、政治的な停滞を克服し、問題を一挙に解決すると称する動きは、イデオロギー的な左右を問わず、無数に出現し、おおむね失敗に終わった。どんなにまだるっこしくても、「わかりやすい政治」の誘惑に抗し、政治の複雑さを見つめ続けるしかない。

生活経済政策2019年9月号掲載