コロナ危機と気候危機
坪郷實【早稲田大学名誉教授】
新型コロナ・ウィルス感染症のワクチンや治療薬の開発が行われるまでに数年はかかるといわれる。コロナ危機は、各国において社会的格差のためや貧困に該当するほど感染者数が増加し、死亡率が高くなるなど、社会システムの脆弱性を明らかにしている。日本では、PCR検査体制の整備、専門病院・集中治療室の整備や軽症者用の宿泊施設の確保、保健所の体制強化など、早急に解決すべき課題がある。
同時に、コロナ危機以前から、世界的に気候危機が大きな政策課題として取り上げられている。気候保護の問題は先鋭化し、各国や各自治体の取り組みでは、気候危機とされる。
昨年、ヨーロッパ連合(EU)は2050年までに気候中立(温室効果ガス排出が実質ゼロになること)の大陸になることを目指し、グリーン・ディールという政策群の実施を表明した。欧州委員会委員長フォン・デァ・ラィエン(ドイツ)は、気候政策がヨーロッパのための成長モーターであり、温室効果ガス排出削減と雇用の創出を可能にすると述べる。EUは、環境汚染を止めることにより、人間の生活と動物・植物の世界を保護し、企業が環境を汚染しない生産物と技術の分野で世界をリードすることを支援し、公正で包摂的な社会への移行を保障し、2050年までに気候中立の達成を目指す。グリーン・ディールは、気候保護の観点から経済の再構築を行い、持続可能な社会への移行を進めるものである。再生可能エネルギー、クリーン・テクノロジー、電気自動車・充電所整備、住宅・建物の省エネ化などに重点的に医投資される。
しかし産業ロビー団体(自動車産業、農業、プラスチック業界など)からは、厳しいCO2価格への異論などが出されている。こうした異論に対して、7月から半年間、EU首脳会議の議長国を務めるドイツのメルケル首相のリーダーシップによる推進が期待されている。ドイツは、昨年、2030年の温室効果ガス削減目標を法的に義務付ける気候保護法を制定している。今後、EUはコロナ後の復興と同時に、デジタル化、気候適合的経済の再構築のために投資を行う。
コロナ危機は、これまでの政治、経済社会システムの脆弱性を露わにしているが、その克服には気候保護、人間のための経済、社会保障三者の統合の観点が大事である。
(生活経済政策2020年8月号掲載)