コロナ後の住まい
木村陽子【前自治体国際化協会理事長】
これほどに、社会経済活動や私達の精神に甚大な被害を及ぼすとは考えてもみなかった。新型コロナウイルス感染症の流行を防止するため、国や地方自治体によって各国で実施されたロックダウンや移動自粛要請は、収入の大幅な低下、失業、心の病、家族内暴力、芸術文化や自然への欠乏感など、数えあげればきりがないほどの副作用を引き起こした。多くの国で国内の移動制限は緩和されたものの、国際的な移動は制限されたままだ。
パンデミックの出口が見えないにもかかわらず、コロナ後の世界を考えざるを得ない。これからの都市のありかたとして、中心部に多くの機能を集約させるコンパクトシテイは重要な選択肢のひとつである。しかし、ロックダウンや移動自粛下の生活経験は、住まいの間取り、広さ、住環境の重要性に、今一度目を向けさせることになった。
移動が制限され、在宅勤務やオンライン授業が普及し、家はもはや眠りに帰るだけのスペースなくなった。多くの時間を費やすことになった住まいは、これまでになく多様な機能を果たさなければならない。たとえば、①複数の家族員が同時に在宅勤務、オンライン会議などができ、②家族間の軋轢を緩和するために1人になれる空間があり、③家族の1人に感染の疑いが出た場合には、一時的に隔離できる離れた部屋があり、④軽い運動を行えるなどである。空気の通り道をよくした住まいはパンデミックを予防する砦ともなる。
これからは、このような多様な機能に対応できるように、住まいを設計する必要がある。それほど広いスペースがなくとも、間取りや風の流れを工夫することで、これらの機能を果たす住まいができる。くわえて、自粛生活で明らかになったのは、モダンなビルを引き立てるための緑の木々ではなく、私たちを懐に抱いてくれる大自然が不可欠であること、通勤時間を縮減しても、仕事にさしさわる部分が思ったよりも少ないということである。こうなると、多くの機能を持つ住まいは、郊外都市や地方部でこそ実現しやすいということになる。地方部の生活が充実することは、コンパクトシテイを活かすことにもなる。
(生活経済政策2020年9月号掲載)