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明日への視角

民主主義の回復

山口二郎【法政大学法学部教授】

 2020年は新型コロナウイルスに世界がおののいた恐怖の1年だった。しかし、政治の面では明るい材料もあった。アメリカ大統領選挙では、ジョー・バイデン前副大統領が当選し、民主主義が何とか踏みとどまった格好である。また、日本では、大阪市廃止に関する住民投票で廃止反対が多数を占め、日本維新の会による自治体破壊が寸前のところで食い止められた。デマや扇動に抗する冷静な民意が表明されたことは救いである。
 アメリカ大統領選挙では、SNSなど新しい選挙運動に注目が集まった。しかし、地域レベルでの旧来の組織化が最後にものを言ったことは、日本ではあまり知られていないようである。バイデンの勝因は、ジョージア、ペンシルベニア、ミシガンなどの接戦州を僅差で制したことである。それは、アトランタ、フィラデルフィア、デトロイトなどの中心都市で黒人の投票数が増えたおかげである。その背後には、民主党の活動家による草の根の組織化が存在した。
 ジョージア州の黒人女性政治家のステイシー・エイブラムズはその代表的リーダーである。彼女は2年前の州知事選挙で惜敗したが、その後も大統領選挙に向けた活動を続けた。日本では、選挙の際に黙っていても市役所から投票所の入場券を送ってくるが、アメリカでは有権者登録制度がある。市民は有権者登録をしなければ投票できない。民主党は2016年のヒラリー・クリントンの敗北の教訓を生かし、有権者登録を呼びかけることを通して組織化を進め、投票率の向上を実現した。エイブラムズは数十万の有権者登録を勝ち取ったと報じられている。
 もちろん、ソーシャル・メディアを使った斬新な広報活動の工夫も必要だが、民主主義の原点は地域レベルの市民の話し合いと説得にあることを日本でも再確認する必要がある。自民党出身で選挙を知り尽くした中村喜四郎氏が立憲民主党に加わり、投票率向上運動を呼び掛けているのも、同氏がこの原点に立脚しているからだろう。
 今年の10月までには必ず衆議院総選挙が行われる。菅義偉政権は安定した支持率を誇っている。しかし、コロナ対策の迷走、安倍晋三前首相が桜を見る会の経理をめぐって嘘をつき続けてきたことなど、政府与党の失敗や腐敗も明らかになりつつある。野党の政治家は地域レベルで市民と対話し、別の選択肢が存在することを訴えてほしい。

生活経済政策2021年1月号掲載