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明日への視角

地方に移住しよう

高橋伸彰【立命館大学名誉教授】

 「共有地の悲劇」。1968年に科学論文誌「サイエンス」に掲載された生物学者ギャレット・ハーディンの論文である。広く知られているように、そこで示されたのはみんなが共有する牧草地は、個人が私的に所有する牧草地よりも粗末に利用され、すぐに荒れ果てるという思考実験の結果だった。これに対し、主流派経済学は共有地を分割して個人の私有地にすれば、「悲劇」は回避できると説いた。自分の土地なら大切に管理すると言うのだ。
 しかし、人間には本来、自分の利益だけではなく、みんなの利益が最大になるように考えて行動する「心」がある。自分が使いすぎたら隣人の使える量が減ってしまう、自分がゴミを捨てれば隣人が拾うことになる、そんな思いやりに溢れた共同体では「悲劇」は生じない。「悲劇」が起こるのは人間の「心」を省みずに、「物欲」を駆り立て、成長や効率性の実現を図る主流派経済学の思想が、共同体を破壊してきたからだ。
 もちろん、小さなパイを分かち合う共同体の貧困から脱しようとすれば、パイ自体を大きくする自由競争的な市場社会への移行も必要「悪」である。その「悪」は戦後の日本では、地方から東京をはじめとする大都市への大規模な人口移動として現れた。だが、公正に分配すれば生きていくための必要が、みんなに行き渡るまでに成長した暁には、ホモエコノミカス(経済合理人)として大都市での競争に身を投じるよりも、趣味や余暇、家族との団らんや隣人との交流など、人生の楽しみに多くの時間を割ける共同体に帰るほうが豊かな生活を営める。
 実際、若い時に憧れた大都市の生活も、それが現実になり時間を経ればマイナス面が目立ってくる。その思いを過去への郷愁ではなく、未来への希望として地方で活かすなら、昔ながらの柵から解放された共同体への道も拓けるはずだ。
 折しもコロナ禍で東京から地方への移住が増えていると言う。この流れが一時的な避難に終わらず、大きなうねりに発展すれば、ポストコロナの時代における新しい豊かさの創造も夢ではない。そう考えると、Go ToトラベルよりもMove Toルーラル(地方)こそ、感染収束後に取り組むべき政策ではないか。

生活経済政策2021年2月号掲載