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明日への視角

森性差別発言辞任事件

三浦まり【上智大学法学部教授】

 森喜朗氏の女性蔑視発言から五輪組織委員会会長職の辞任に至るまでの10日間は、社会がまるで沸騰したかのようだった。女性・人権団体からの抗議声明、個人または団体での抗議行動、オンライン署名、ボランティアや聖火リレーの辞退、スポンサー企業の見解表明、そしてネット上での無数の怒りの声。日本社会において、これほど多声的に性差別が問題視された事象はなく、そして引責辞任へと追い込んだという意味で、ジェンダー平等に向けて画期をなす事件となった。
 多くの人は森発言を不適切だと思っている。しかし、本人の釈明会見では男女を区別したことが悪かったと述べるにとどまり、性差別であるとの認識がどこまで社会に浸透しているかは不透明だ。改めて、森発言のどこが問題だったのかを確認をしたい。
 女性差別撤廃条約によれば、女性が男性と対等に意思決定に参画することを害したり無効にしたりする効果を持つものは、発話者にその意図がなかろうと差別にあたる。「女性を蔑視するつもりはなかった」という森氏の釈明は、差別を理解していないことを露呈するものであり、謝罪としてはむしろ逆効果でしかないのである。
 問題となった発言は次の内容を含んでいた。まず、森氏は意思決定に女性を増やすためにクオータを実施することへの疑義を述べた上で、女性の話は長い、わきまえている女性はそのようなことはしない、(話の長い)女性を増やすなら発言時間を制限する必要があると述べた。つまり、男女同数の意思決定(パリテ)の理念を否定しただけでなく、参加することを許された女性たちに発言を控えることを求めたという意味で、女性の参画を害する効果を持った。さらには「話が長い」という言い方には、余計なことを言うというニュアンスが感じられ、女性の発言内容をも無効にするものであるといえる。
 森氏が性差別発言の責任を取らされるかたちで辞任に追い込まれたことを、私たちは記憶し続ける必要がある。「森性差別発言辞任事件」によって社会が前進し、新しい規範を形成したことを胸に刻み、あらゆる差別撤廃に向けて更なる意識覚醒へと繋げたい。

生活経済政策2021年3月号掲載