原発よりも再生可能エネルギーの拡充を
秃あや美【跡見学園女子大学教授】
私たちは、時代の転換点に立っている。この間、気候危機とコロナ・パンデミックという二重の危機に直面し、人口減少社会が進行している。また、ロシアのウクライナ侵攻から半年がたち、戦闘地域での死傷者が増え、市民の苛酷な状況が続いている。原発への武力攻撃の問題も生じている。核戦争の恐怖がよみがえるとともに、抑止戦略の破綻を指摘する意見もある。多国間の外交交渉が重要であると考えるが、停戦や和平のための動きは見えず、世界的にエネルギーの高騰や食糧不足が生じ、経済への影響も大きい。このような不確実な時代においてこそ、私たちは構想力を必要としている。どのような課題が大事で、どのような社会への移行を目指すのかの議論である。
気候変動問題への対処には、持続可能な経済社会への移行が不可欠であり、脱炭素と脱石炭火力は世界的な流れになっている。気候保護への取り組みは、経済に好影響を与えるが、同時にコロナ・パンデミックも含めて地域で多くの市民が困難を抱えているので、社会保障政策の更なる展開が必要である。エネルギーの観点から見れば、鉱物エネルギーから再生可能エネルギーへの転換問題である。この肝心の点が明確にされないなら、エネルギー不足や高騰が生じると、見通しのない策で乗り切ろうとする。8月の第二回グリーン・トランスフォーメーション実行会議で、脱炭素の加速化やロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー・電力不足を理由にして、岸田首相が原発の再稼働を進めることに加えて、新増設や建て替えの検討を進める考えを表明した。しかし、2011年3月11日の東京電力福島第一原発の苛酷事故後、安全性の問題が最優先であり、地震や災害が多発する日本では、より早期の脱原発が望ましい。経産省の試算でも、2030年新設の原発は事業用太陽光発電よりも割高であり、小型炉や新型炉も開発中に過ぎない。見通しのない方策でなく、具体化しうる再生可能エネルギーの拡充政策をとることが緊急の課題である。東京都が検討している新築建物への太陽光パネルの設置義務化のような制度(環境確保条例改正)こそ必要とされる。建設・住宅部門、交通部門など、各部門で再エネの導入を制度化し、強力に進めるときである。
(生活経済政策2022年10月号掲載)