ジャニーズ問題に見る日本の「権力構造」の弱さと強さ
住沢博紀【日本女子大学名誉教授】
今メディアを賑わせる「ジャニーズ問題」には二つの論点がある。一つは創業者の未成年者への未曽有の規模と期間の性犯罪であり、ジャニーズ所属タレントをCMに使ういくつかの大企業は、海外からの批判を想定して打ち切りを宣言している。もう一つは、告発したBBCの記者も述べている、こうした犯罪を長期に渡り黙認した日本のテレビ・新聞の責任であり、一企業の優越的地位を許す構造である。ここでは後者の問題を扱う。
この問題は、私たち政治学者にも馴染みのある、安倍長期政権を支えた「メディア、省庁、大企業」の「忖度」構造と関連している。内部告発者、批判メディアの排除であり、「抵抗勢力」の無力化である。原発推進政策も統一教会問題も、原発メルトダウンや安倍襲撃など、「大災害やテロ事件」に至るまで放置された。またその後も、抜本的な解決策は提示されない。これが日本の権力構造の弱さと強さである。
弱さとは何か。日本の権力構造の特色はムラ社会にあり、しかも分野、業界などに分断化されたムラ社会である。政界、省庁、経団連と業界、労働界、マスメディア、エンタメ業界、スポーツ組織、地方政界など、それぞれムラ社会として他の領域には口を出さない。自分のムラでは異質分子や批判者は排除する。さらに正規メンバーとそれ以外、メジャーとマイナー(インディーズ)、正規雇用と非正規、大企業と中小企業と序列化したものの、「頂上」の「ムラ」はやせ細り、高齢化・空洞化し、全体の見通しや将来の展望を出せなくなっている。
強さとは何か。ムラ社会への外部からの批判勢力や挑戦者、共産党、総評・社会党、日教組、戦後知識人、批判的メディア、鳩山民主党、クリエイティブな起業家・競争者などを排除した結果、この歪なムラ社会も継続できていることである。「失われた30年」が示すようにその生命力は強く逞しいが、将来への発展を閉ざされ自縄自縛に陥っている。個性ある次世代を育成できない教育界がその最たるものである。
国民民主党の玉木代表は、ジャニーズ問題に関連して能年玲奈(現のん)の「テレビからの排除の謎」に言及した。与野党対決に勝利した岩手県達増知事は、7年前から「中央・地方」の図式でこの問題と取り組んでいる。立憲民主党も、ムラ社会の透明化や基本的人権と公平原則にたつ立憲主義を、小さい一歩から実践すべきであろう。
(生活経済政策2023年10月号掲載)