「貧しい日本」で少子化が道理
大沢真理【東京大学名誉教授】
11月7日に毎月勤労統計調査の9月分の結果が公表された。ボーナスを除く「決まって支給する給与」の実質が、前年同月にたいして20カ月連続して低下した。2020年の平均を100とする指数では、96.5となった。
年平均値を中期的に見ると、民主党内閣最後の2012年の107.1から、第二次安倍政権になると、年々、1.3、3.4、0.9などとポイントを落とし、2020年の100になった。消費税率引き上げと円安による物価上昇に、賃金が追いついていないことは、明々白々だ。
7月4日には2022年の国民生活基礎調査の結果が公表され、そこに2021年の相対的貧困率が含まれている。全人口について、前回の数値である2018年の15.7%から微減して15.4%となった。調査では収集された世帯単位の可処分所得について、世帯員数の平方根で割ることで1人当たり可処分所得を求め(等価可処分所得)、その中央値をとる。等価可処分所得が中央値の半額未満である人びとが人口に占める比率が、相対的貧困率である。
コロナ禍にもかかわらず貧困率が下がったと評価するのは、早計である。経済協力開発機構(OECD)にたいしてアメリカとイギリスからは、それぞれ2021年まで、2020年までの数値が報告済みであり、アメリカでは2019年から21年にかけて2.9%ポイント低下、イギリスでは2019年にたいして20年は1.2%ポイントの低下だった。アメリカの貧困率は従来17−18%で、主要国で最悪だったが、バイデン政権によるコロナ対策としての緊急支援(失業手当の上乗せ、現金給付、児童税額控除の拡充等)が、現役層と子どもの貧困率を急低下させた。その結果、日本の貧困率はアメリカよりも高くなってしまった。なかでも18−25歳の貧困率が、OECD全体のなかで有数に高い。
貧困率は高くても、日本はまだまだ「豊か」で、貧困とされる人びとの所得も、他国にくらべて低くない、という見解もあるかもしれない。そこで等価可処分所得の中央値を、購買力平価でドル換算してみよう。すると、主要7か国にオランダと韓国をくわえた9か国のなかで、日本の数値は最低である。日本の中間層とともに貧困層は、G7とオランダ・韓国のなかで、最も貧しいのである。
若者が結婚以前に恋愛にも乗り気でなく、少子化が加速し続けることも、道理である。
(生活経済政策2023年12月号掲載)