「規制緩和」と「安いニッポン」
石川幸徳【JP労組中央執行委員長】
政労使が「経済の好循環を生み出すためには継続的な賃上げが重要」との共通認識のもと臨んだ2024春季生活闘争は、3月末時点において労働組合の要求に満額回答する企業も多く、これまでにない成果を挙げている。
片方、業績を理由に物価上昇分にも届かない賃上げに留まる企業もある。今後、中小の妥結が進むと、こうしたところも増えてくると思われる。
このような事態に陥る要因の一つが、思うように進まない価格転嫁にある。連合は、「労務費を含めた価格転嫁が不可欠」と訴え続けていることから、その認識は広まりつつあるが道半ばである。
マスコミ報道でも、商品の「規格変更」や「内容量変更」を行うことで価格を据え置くといった企業の苦悩が紹介されるなど、原材料費の高騰などによるコスト増をストレートに価格転嫁することの難しさを物語っている。
私たちも労働者の立場では必要経費の価格転嫁は当然のことだと主張する一方で、消費者としては一円でも安いものを買い求める。
税や社会保障など国民負担率が上がり続ける中での物価上昇は、私たちの生活を困窮させるから当然のことだ。つまり、全労働者の実質賃金がプラスに転じない限り、経済の好循環は実現しない。
もう一つ押さえておきたいのは、「規制緩和」という耳心地の良い言葉の裏側だ。
私の労働運動の大半は、規制を廃止もしくは緩和して競争を促し、商品やサービスをより安く享受することが是という時代の趨勢との闘いであった。
規制の内側にいる者は既得権者と疎まれ、規制の必要性を主張する者は抵抗勢力と訝しがられた。その結果が、今日の「安いニッポン」だと思う。
いよいよ、ライドシェアが部分的ではあるが解禁される。海外で当たり前に利用している人は、日本は導入が遅れていて不便だと嘆くが、スマホを持ちアプリを使いこなせる国民が大多数ではない。また、ライドシェアによる事故やトラブルの実態も明らかにされずに、利便性のみにスポットが当てられて導入が進むのは問題である。ましてや、これに安さを求めれば、いつか来た道である。
労働者を守ることは、利用者を守ること。利用者を守ることは社会を守ること。そのための規制は必要だ。
(生活経済政策2024年5月号掲載)