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明日への視角

第50回衆議院選挙の意義

山口二郎【法政大学法学部教授】

 8月に岸田文雄前首相が退陣を表明して以来、石破茂首相の誕生、そして10月27日の衆議院選挙と、政治はめまぐるしく動いてきた。この号が読者に届くころには選挙の結果が出ているので、結果を予想することには意味がない。ここでは、この選挙の意義を確認しておきたい。
 岸田政権が倒れたのは、自民党における裏金問題に対してけじめをつけられず、国民の不信を解消できなかったためである。また、石破氏が党内基盤を持たなかったにもかかわらず総裁に選ばれたのは、この十年あまり、自民党の非主流派として自民党政治の腐敗や暴走に異を唱えてきたからである。自民党が窮地に立たされた今、良識派らしく見える石破氏を総裁に立てて、国民の怒りをかわそうという常套手段の再現であった。
 しかし、石破氏は総裁、総理になった途端にそれまでの正論を引っ込め、自民党政治家の利害に沿って、大慌てで衆議院を解散した。他方で、裏金をもらっていた議員をすべて公認するという方針が不評だとわかると、12人の議員について非公認という処分を下した。すると、旧安倍派を中心とする猛烈な反発が出ている。
 裏金問題や旧統一教会事件で明らかになったように、国民の常識と、自民党内の常識は正反対である。石破首相は、この二つの常識の間で板挟みとなり、右往左往している。国民にとっての非常識である自民党の常識を作り出したのは、2012年以来の安倍晋三政権とその後継となった政権である。「モリ・カケ・サクラ」に代表される政治手法の問題だけではない。アベノミクスと言われるこの十年あまりの経済政策も、日本が抱える構造的問題に向き合うことなく、金融緩和によってすべてをごまかす先送りであった。安倍政治が犯した様々な罪と失敗が自民党内に大きなひずみをもたらした。プレートのひずみが発散されて地震が起こるように、今の自民党では安倍時代からのひずみをごまかしきれなくなり、大地震に見舞われているのである。
 したがって、選挙の争点は、安倍政治を終わらせるのか、続けるのかという一点である。石破首相は安倍政治を終わらせるのか、安倍的なものに取り込まれるのか。ここをこれからも注視したい。

生活経済政策2024年11月号掲載