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明日への視角

まずは“日本「語」を取り戻す”論戦を

大沢真理【東京大学名誉教授】

 安倍自民党は2012年12月の総選挙で、「日本を取り戻す」をスローガンとして大勝した。それ以来、首相自らが虚偽答弁を重ね、官僚に文書を改ざん・捏造させ、問答無用の強行採決を頻発するなど、国会審議を形骸化してきた。それは、保守派が守りたいはずの日本語を空虚にし、破壊することでもあった。
 大きな例が「全世代(対応)型社会保障」である。それは麻生太郎内閣のもとで2009年6月に提起され、生涯をつうじて世代に切れ目のない安心を保障することが眼目だった。この方針は、民主党内閣によって「全世代対象」・「未来への投資」などの用語でひきつがれた。
 ところが、第二次安倍内閣では2019年の骨太の方針で、全世代型社会保障への改革という見出しのもとに、提唱されたのは、70歳までの就業機会確保、疾病・介護の予防などである。そもそも社会保障は、就業機会が確保できない場合、病気や要介護のリスクが高まるといった場合のために、存在するのではないかという疑問は、要人の頭には浮かばなかったようだ。
 岸田内閣では2023年12月に、「異次元の少子化対策」を加速するとして、3年間で3.6兆円を要するプランが打ち上げられた。これらは、「国民に実質的な追加負担を求めることなく」おこなわれるという。
 追加の負担がないのは、徹底した歳出改革や「支援金制度」の構築による、という論法である。だが、1兆円の「支援金」の導入が、追加負担でないというのは、通常の言語感覚では理解不能で、日本語破壊というしかない。実際に事務局は「保険料」と説明しており、2028年度には21年度にたいして保険料額が4%から5.5%も重くなるのだ。引き上げ幅は被用者健保より、国保や後期高齢者医療制度で大きい。
 しかも、支援金制度の導入に先立って、後期高齢者医療の平均保険料月額は、2021年度から25年度の4年間で14%以上(6300円から7200円へ)と、まさに猛烈に引き上げられている。この引き上げを導入したのは、23年5月の「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための」健保法等改正である。
 こうして政権トップによる日本語破壊は、岸田内閣に至ってグロテスクの域に達した。少数与党の国会で、まずは“日本「語」を取り戻す”与野党の論戦を期待する。

生活経済政策2024年12月号掲載