月刊誌紹介
月刊誌紹介
2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
2006年
2005年
2004年
2003年
2002年
2001年
2000年
1999年
1998年
1997年
明日への視角

「アベノミクス」の政策的失敗 

金子勝【慶應義塾大学名誉教授】

 円安インフレの第2波が襲っている。
 2022年9月、24年4月末の連休にそれぞれ9兆円を超える為替介入が行われたが、元の木阿弥だった。円安がまた再び進み始めると、再び企業物価(卸売物価)が昨年7月から上がり始めている。昨年12月の企業物価は3.8%まで上がり、11月の生鮮食品を除く消費者物価上昇率も2.7%、総合指数も2.9%に上昇。2025年に入って4月まで値上げするのは6000品目にも及ぶ。とくに食品の価格上昇と実質賃金低下の結果、24年1〜8月のエンゲル係数(2人以上世帯)はすでに28.0%、年収200万円未満の世帯では33.7%に達している。
 なぜ円安インフレが進むのか。2022年春から、ロシアのウクライナ侵略によって世界中で物価が上昇したにもかかわらず、8年以上もデフレ脱却もできないままアベノミクスを続けてきた結果、抜け出られなくなってしまったからだ。そのため日米金利差が拡大するにつれ円安が進み、円安は輸入物価の上昇を通してインフレをもたらした。
 22年4月以降、3年近く、物価上昇率2%を超えているのに、いまだに石破首相は「デフレ脱却を本格化する」と言い、115兆円の大型予算案を出そうとしている。明らかにインフレなのに、デフレ脱却を目指すアベノミクスを継続すれば、インフレになるのは当然だろう。他方で、インフレを抑えるために日銀は昨年7月末に金融緩和(国債購入額)を半減させると宣言したが、実際に実行したら、国債価格の下落と長期金利の上昇が起きかねない。政策が支離滅裂に陥っている。
 一部野党も赤字国債依存の減税を煽っているが、かえって円安インフレを招き、事態を悪化させるだけだ。実際に、消費税減税は5%減税で15兆円、10%全廃で30兆円の税源を失う。円も日本国債も投げ売りになって、2022年9月大型減税を打ち出し44日で崩壊したトラス英政権、あるいは23年春に70〜80%の悪性インフレになったトルコの二の舞になりかねない。しかも「コンクリートから人へ」の下、知識経済化を目指した民主党政権の政策を否定し、「3本の矢」を掲げたアベノミクスをとったために、産業衰退、貿易赤字、実質賃金の低下、人口減少が止まらないのだ。失敗した経済政策は早急に転換しなければならない。

生活経済政策2025年2月号掲載