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明日への視角

熟議の国会は実現したか

成田憲彦【駿河台大学名誉教授】

 第217回通常国会は6月22日に閉会した。この国会は、与野党が「熟議の国会」をめざしてから初の通常国会だった。それは果たして実現したのか。
 熟議の国会の背景は、昨年10月の総選挙の結果、第二次石破内閣が少数党政権となったことにある。野党は自分たちの政策を呑ませるチャンスととらえ、野党第一党の立憲の野田代表が掲げたのが「熟議と公開」だった。「熟議」は議論し、相談し、修正することを、「公開」はそれらを国会の場でやることを意味した。
 先立つ第216回臨時会では、それらしい動きもあった。政治とカネでは、異なる党の三法案がいずれも成立した。その経験は引き継がれたのか。
 今国会では予算は高校無償化の維新の要求をいれて成立したが、予算全体に維新が賛成するだけの熟議があったかは疑問だ。国民が求めた所得税の基礎控除の引上げは、額で折り合わず最終的に国民は反対に回った。立憲の追求した高額医療費の自己負担額引上げの手直しは、与党内の力学で参院に行ってから実現した。
 企業・団体献金の見直しは、審議はなされたが改正は何も実現しなかった。選択的夫婦別姓法案の実質審議が28年ぶりに開始されたが、各野党が自分の案にこだわっていずれも成立しなかった。年金改革法案は、自公と立憲が基礎年金の底上げ措置の修正を行い成立したが、立憲が前国会で批判した国会外での政党間協議によってなされたことから、他の野党は反発した。予算委員会の省庁別審査のように、評価できるものもあったが、全体として野党は、熟議より少数党政権に対する自らの政策の売り込み合戦に終始したと言えよう。
 制度的な課題もある。「熟議」を実現するには、審議は諸外国のように修正の議論を中心にすべきだ。日本も初期帝国議会では修正中心の逐条審議がなされたが、今は疑問点をただす質疑が中心である。「質疑終局」となって初めて修正を議題とするから、扱う時間は限られる。修正は議案でなく動議だからという理屈のようだが、全面的に見直す必要がある。「熟議の国会」は大切な目標だが、道は遠い。

生活経済政策2025年7月号掲載