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明日への視角

多国籍企業の租税回避と法人税の未来

諸富 徹【京都大学大学院経済学研究科教授】

 今年11月下旬、米製薬大手ファイザーが、アイルランドの同業アラガンとの総額1600億ドル(約19兆7000億円)規模となる合併を発表した。ファイザーが本社を米国から法人税率の低いアイルランドへ移すことで、年間の税負担が数十億ドル軽減される。このため、クリントンからトランプに至るまで、民主党・共和党両陣営の大統領候補が一致して批判する展開となっている。
 「インバージョン」とは、米国の多国籍企業が、税率の低い外国の企業を買収、あるいはそれと合併し、親子関係を転倒させて、本社を買収先の低税率国に移してしまうことで米国法人税法の適用を免れ、節税を図る手法を指す。こうした動きの背景にあるのが、OECD諸国でもっとも高い35%という米国の法人税率(連邦レベルのみ)の存在である。税率の低い他国の多国籍企業に対して競争上不利だと考える彼らには、本社移転で米国法人税法から免れようとするインセンティブがどうしても働く。
 当然、米国ではこれに対してどう税制上対処すべきか、熱い議論が起きている。産業界・共和党側は、こうした現実を直視し、多国籍企業の海外収益への米国による課税を放棄し、彼らが他国の多国籍企業と税制上、対等に競争できる環境をつくってやるべきだと提案する。だが、米国と外国の税率格差を残したままでは、海外移転へのインセンティブは消えず、税収ロスが大きくなるだけで問題の根本解決にならない。民主党やリベラルなシンクタンク・研究者らは、法人税率を引き下げる代わりに、多国籍企業の海外収益に課税強化することを提案している。いずれの提案にせよ、米国政治の焦点は大統領選に移っており、本格的な対応がとられるとすれば、新大統領下の2017年以降になるだろう。
 重要なのは、もはやアメリカですら、一国で税制を決められないということだ。国際的な法人税率引き下げ、タックスヘイブン、そして各国の優遇措置といった要素に、アメリカの多国籍企業が引き寄せられていく。生産や雇用が流出するのをアメリカ政府も黙視できず、法人税を改革せざるを得なくなったのだ。日本の法人税改革の行く末という観点からも、アメリカの今後の議論に注目する必要がある。

生活経済政策2016年1月号掲載