月刊誌紹介
月刊誌紹介
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
2006年
2005年
2004年
2003年
2002年
2001年
2000年
1999年
1998年
1997年
明日への視角

現場の時代を超えて

木村 陽子【自治体国際化協会(クレア)前理事長】

 安全・安心のまちづくりが、地方自治体の新たな行政課題として、脚光を浴びだしてから、およそ30年になる。この間、地方自治体、社会福祉協議会、福祉施設などによる幾多の先進的事業は、制度改革に影響を及ぼすなど、地域福祉の進展に貢献してきた。
 今から30年前、1980年代半ばの日本の高齢化率は10.3%と低かったが、高齢者が急増するなか、最大の問題に浮上したのは介護で、要介護高齢者の暮らしを支えることが地域福祉の焦点となった。介護保険は未発足で(2000創設)、先進的事業としては、武蔵野市の在宅サービスなどが全国的に脚光を浴びたものの、地域格差も大きかった。
 2016年現在の高齢化率は26.7%となり、人口も減少期に入った。地域福祉の重要度は増す一方だが、その内容は30年前とはずいぶん変わった。今では、社会的排除をできるだけなくすため、高齢者の生活支援だけではなく、政策として精神に障害を持つ人などの就労の支援も始まった。その先進的事例として、和歌山県一麦会などの試みが注目されている。
 地域福祉の担い手も、役所や準公的機関、NPOやボランテイアだけではなく、民間企業、社会的企業などと厚みを増してきた。とくに社会的企業については、欧米のように、株式の投資促進制度も検討され、福祉分野の資金の流れも変わろうとしている。各地で開催される地域福祉の講演会やシンポジウムでも、地域で長く働き、実績をあげてきた方々が講壇に立ち、個別の事例が発表されるようになった。 まさに、地域の時代、現場の時代になったのである。
 このような現場の時代の到来を期待していた者として、それを歓迎する一方で、危惧も抱くようになった。それは、あまりにも、関係者の関心が、個別の事例に偏りすぎていないか、ということである。これからもしばらくは、現場の時代が続くであろう。だからこそ、広いパースペクテイブから、個々の事例をもとに、制度改革を絶えず考究すること、つまり、現場の時代を超える理論研究が必要ではないか、とこの頃、考えている。

生活経済政策2017年2月号掲載