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明日への視角

権利のための闘争

山口二郎【法政大学法学部教授】

 9月末に、西武そごうの労働組合がストライキを行い、西武百貨店池袋本店が一日休業したことは、社会的にも反響を呼んだ。この時の世論の受け止め方には、興味深い変化があったように思う。ストライキの前日夕方のNHKニュースでは、街の声として、ストでデパートが休みになるのは迷惑という市民の声が紹介されていた。しかし、スト当日の夕方のニュースでは、雇用の問題は切実なので従業員が戦うことも理解できるという声を最初に紹介していた。
 日本では、かつての国鉄のストライキ以来、ストには否定的なイメージが付きまとっていた。そして、大企業ではほとんどストは行われなくなった。しかし、この20年ほど、目先の利益を追求するために労働者を取り替え可能な部品のように扱う経営手法が広がり、雇用の劣化は進んだ。ようやくそうした風潮に対して、ストライキという権利を武器にして戦う動きが始まったことに、人々は注目したのだろう。労働組合が雇用を守るために経営者と交渉することは当事者の利益のためだが、そうした戦いは社会全体に波及し、働く市民の権利擁護をエンパワーすることにつながる。
 また、9月下旬には、アマゾンの荷物配達を請け負っていた人が仕事中にけがをした件について、横須賀労働基準監督署は労災の認定を行った。従来、この種の請負という形態で働く人については、雇用関係ではないとして、労働者に認められる労災などの権利が認められていなかった。
 これは、ギグ・ワーカーと呼ばれる世界的な問題である。イギリスの映画監督、ケン・ローチは、家族を養うために配達の仕事をする請負労働者の境遇を描いた「家族を想うとき」という作品を世に問うた。私は彼の作品を大体見てきて、社会の矛盾を告発する一方で、最後に市民の連帯の可能性を示すという希望を見出すのが常だった。しかし、「家族を想うとき」の出口のない結末には、暗澹たる思いがした。
 その後イギリスでは、配車サービス、ウーバーの労働者が、自分たちは自営業者ではなく労働者としての権利を持つと主張する裁判を起こし、最高裁は2021年2月に、労働者の主張を認める判決を出した。ローチ監督の作品も世論喚起に一役買ったと思われる。
 戦後日本を代表する政治学者、丸山眞男は、『日本の思想』という著書の中で、「権利の上に眠る者」は救済されないと述べて、能動的な市民になることを訴えた。グローバル資本主義が猛威を振るう中で、権利の上に眠っていては自分の命や生活が守れないという現実を、今や多くの人が実感しているのだろう。社会変革の突破口として、注目したい。

生活経済政策2023年11月号掲載