政権交代を見果てぬ夢にしないために
三浦まり【上智大学法学部教授】
自民党安倍派を中心とする政治資金パーティー収入の裏金化疑惑が表出し、政権を大きく揺るがしている。2018〜2022年の5年間で収支報告書に記載されていない裏金は安倍派だけで5億円規模といわれ、不記載額は総額で10億円を超えるとも報じられている(2023年12月14日時点)。記載漏れ自体は全派閥で起きており、検察がどこまで捜査を広げるかによって、自民党内派閥秩序や政党再編成に大きな影響を与えるだろう。
事件の規模次第ではリクルート事件にも匹敵しそうである。12人が贈収賄罪で起訴された同事件ほどの広がりを見せるかは不明だが、当時の閣僚辞任が3人だったことを思うと、すでに岸田内閣では4人の閣僚が更迭されており、政権に与える打撃は計り知れない。
リクルート事件以降の自民党の迷走は1993年の自民党下野と政界再編へと繋がった。消費税導入への不満と冷戦終結による国際秩序の変動も政界再編を促す背景要因を成した。現在が国際秩序の変革期にあることは論を俟たないし、増税が予定されるなかで一回限りの減税を打ち出したことがかえって内閣支持率低下をもたらしたことを踏まえると、国民の不満が充満しており、何が起きても不思議ではないはずだ。
もっとも、内閣総辞職は想像し得ても、政権交代までは見通せそうにない。小選挙区中心の選挙制度の下で、かつての小沢一郎らのように党を割る行動に出る議員がいるとも思えない。せいぜい、与党に接近していた一部野党の動きが止まる程度の影響しか与えないのかもしれない。
1990年代の政治改革は定期的な政権交代を根付かせるためのものだったはずである。それが実現しなかったばかりか、政党交付金と企業・団体献金の二重取りが常態化し、政党資金規正法をかいくぐるように裏金作りまで横行していた。政治改革が政治を良くしたとは到底思えない状況である。
随所で政治改革の検証が進んでいる(本研究所でも取り組んでいる)。包括的な検証を踏まえた制度改革の議論を深めていきたい。同時に、オルタナティブな社会構想を自由に語る場を増やしていきたい。気候正義、ジェンダー正義、グローバル正義などのさまざまな社会正義が語られるようになってきたのは、現在の資本主義がもたらす富と権力の集中を是正し、公正で平等で民主的な社会を構築することが急務だからだ。戦争へと突き進みかねない時代状況に抗うために、社会正義に基づく政権交代の夢を描いていきたい。
(生活経済政策2024年1月号掲載)